最低賃金とタクシー
最低賃金の引き上げとタクシー運転手の賃金について考えてみます。
厚生労働省の中央最低賃金審議会の小委員会は28日、最低賃金(時給)を全国加重平均で4.1%(4.3%)引き上げて1,002円とする目安をまとめた。過去最大の引き上げ額となり、政府目標であった1千円を超えた。歴史的な物価高で家計が厳しくなっていることを重視した。
全国加重平均とは「全国の最低賃金を都道府県ごとに労働者数で重み付けして平均した額のこと」で、次のように求められます。
(2県での加重平均の例)
- A県 最低賃金 1,000円、労働者 100人
- B県 最低賃金 900円、労働者 150人
=(1,000×100+900×150)÷(100+150)=940円
加重平均では1,000円を越えましたが、地域別では8都道府県だけでしか超えないようです。九州、四国、東北ではほとんどの県が800円台です。「1500円」という声もあったのですが、そこまでには数年、いや十年程度かかるのではないでしょうか。
タクシー事業と最低賃金
タクシー運転手の賃金は出来高制歩合給が多いようです。ボクの勤め先も、そしてこの地域でも知っている限り歩合給制です。ということもあり、最低賃金には影響されない、と考える人もいるのではないでしょうか。
ところが、労働時間×最低賃金で支払われている運転手がいます。所謂「最賃割れ」する人たちです。次にその最賃割れについて概説します。
タクシー運転手の最賃割れ
あるタクシー会社の売上に対する歩率が50%とします。
Aさんは7月に拘束時間200時間あり、そのうち休憩時間が30時間あったので、実労働時間170時間で、売上は300,000円でした。
- 労働時間170時間
- 売上300,000円
- 歩率50%
- 歩合給150,000円
現在の愛知県の最低賃金は986円です。したがって会社はAさんに167,620円(170時間×986円)支払わなくてはなりません。ところが、歩合給は150,000円です。17,620円不足しています。この不足分を補償することになります。これが歩合給の最賃割れです。
- 歩合給150,000円
- 最賃補償17,620円
- 支払い賃金167,620円
つまり、歩率50%で労働時間170時間の場合、売上は335,240円以上なければ、最賃割れするということです。
最低賃金が上がることの何が問題なのか
前項の例で示した通り、会社はAさんに最賃補償を17,620円支払っています。これが最賃が引きあがると、170時間×1027円=174,590円になります。その差6,970円です。経営者は、最低賃金の引き上げが6,970円の費用増になる、と考えるのです。
都市部では最賃割れする人は少ないかもしれません。売上30万円はそれほど難しくないかもしれません。さらに、歩率50%よりは高いのでしょう。
ところが、地方では1日15,000円の売上で20日、やっと30万円です。それに50%より低い歩率の事業者さえあります。そうなると、最賃割れする運転手が多くなります。
最賃割れは誰のせいなのか
最低賃金が上がったので、会社の支払いも増える。これ、当たり前のことではないのでしょうか?このことが問題になること自体問題なのです。しかし、タクシーの賃金が出来高制歩合給であるこ30そしてその出来高に幅があることが経営者にとっては問題になります。つまり、最賃割れ問題です。
特に問題になるのは、例えば出来高0円でも、労働時間分の賃金が支払われるということです。これは極端な例です。しかし、やらない人のほうが得をする、ことが起きるということです。以下、その問題についての例です。
Aさん
- 売上0円
- 労働時間170時間
- 賃金170×986=167,620円
Bさん
- 売上340,000円
- 労働時間170時間
- 賃金340,000×50%=170,000円
ということです。
最低賃金引き上げだけが悪いのか
それだけが悪い、というわけではありません。例えば上の例は
- 売上300,000円
- 歩率50%
- 歩合給150,000円
これを歩率60%にします。すると、歩合給は180,000円になります。労働時間170時間の最低賃金を越えます。会社は最賃補償をしなくて良い、ということになります。
このように、運転手だけの責任ではないということです。歩率という労働条件、あるいは、経営者の経営努力、待機方法、シフト、いろいろな要素が運転手の売上に影響をします。とすると、どうすれば売上をつくることができるか、その方法を考えるのは、最終的には経営者、管理者の責任ではないのでしょうか。
それを運転手の責任だけにしてします。そして何か悪いことのように「補償」をする、このタクシー業界の考え方が悪いのです。
経営努力
最低賃金は上がる理由があります。そしてもっと上がっていいと思います。これまで考えてきたように、経営者はそのことを嘆いたり、マイナスとして受け取るのではなく、上がった分が運転手に反映されるような方法を考えてほしいと思います。
いつまでも出来高制歩合給という賃金制度にあぐらをかき、売上を運転手まかせにしないでほしい、そう考えているのです。
不透明な賃金制度と不明な賃金、これが運転手にとっては負担になっているのです。