ライドシェア解禁と国家戦略特区
ライドシェア解禁の議論が白熱したのは今回が初めてではありません。2015年10月の国家戦略特区諮問会議において「過疎地等での観光客の交通手段として、自家用自動車の活用を拡大するという安倍総理の発言あたりでも起こりました。平成28(2016年)年9月に国家戦略特区法の一部が改正されました。その過程をまとめたのが次の図1です。
図1 国家戦略特区法の一部改正法概要1
今回は、改正前の2016年5月19日に開かれた、参議院内閣委員会「国家戦略特別区域法の一部を改正する法律案」についての審議、その議事録をもとにライドシェア解禁について考えてみます。
辰巳孝太郎さんの質問とその回答
辰巳幸太郎さんのライドシェアに関する質問を次にまとめてみます。(職名は当時のもの)
タクシーライドシェア問題で石破大臣と高城自交総連委員長に質問
第190回国会参議院内閣委員会第16号平成28年5月19日 (議事録です)
第二種免許の必要性
辰巳孝太郎議員
「なぜタクシードライバーに二種免許の取得が必要とされているんでしょうか」
井上剛志警察庁交通局長
「タクシー等の旅客自動車運送事業に用いる自動車の運転については
- 1日の走行距離や輸送人員が多くなること
- 乗客の指示による急な方向転換などに対応するため通常より高度の運転技能や知識が必要とされること
- 旅客自動車による事故は人命を損なうことが多いこと
などを踏まえて、第一種免許よりも厳格な要件を求める第二種免許を必要としている」
経済より運行の安全、安心が最優先
辰巳孝太郎議員
「石破大臣、安全、安心の運行は最優先で、このことはいかなる事由、例えば経済の発展、経済成長などのために犠牲にしてはならないということで確認したいと思います。」
石破茂国務大臣
「それで結構です」
ライドシェアが認めれない理由
辰巳孝太郎 議員
「国交省、なぜライドシェアは認めることが出来ないんでしょうか」
持永秀穀国土交通大臣官房審議官
「結論から申し上げれば、安全の確保、それから利用者の保護といった観点から問題がるものと考えております」
改正された内容
この審議を経て、同じ年の6月に一部改正法が交付されました。しかしライドシェアは認められませんでした。 結局、それまでの交通空白地有償運送に以下の変更を加え、国家戦略特区法の「自家用自動車の活用拡大」は9月1日に施行されました。
- 主な運送対象
- 訪日外国人をはじめとする観光客
- 実施手続
- 国家戦略特別区域会議による
- 国土交通大臣の同意
- 内閣総理大臣による認定
図2 国家戦略特区法の一部改正法概要2
タクシー業界のライドシェア対策
同じ時期に、タクシー業界も「全タク連ライドシェア問題対策特別委員会では、ライドシェア対策の深度化する項目として「タクシーサービスのさらなる高度化策の検討」を挙げ、平成28年6月から集中的な議論を行い、「タクシー業界において 今後新たに取り組む事項について3」を発表しました。
この「取り組む事項について」は「11項目」と言われています。目標数が11項目あったからです。その2年後、2018年6月に「追加9項目4」が加えられます。
タクシー業界はライドシェア問題対策を含めた活性化に取り組んできたのです。ただ、業界の中にも温度差があって、楽観視していた事業者も多かったの、というのが事実でしょう。
そしてまたライドシェア再燃
今回はタクシー不足を背景にライドシェア問題が浮上してきました。タクシー不足の主な原因は運転手不足です。「不況に強い」という前例があるため、コロナ禍が終息すれば運転手は集まる、そう考えていた人も多いはずです。ところが集まらない。日車営収は過去最高なのに稼働率が上がらないものだから、事業者収入は増えません。
そして円安です。円安がインバウンドを急増させています。タクシー乗場での行列が報道されます。深刻なタクシー不足はさらに深刻化します。
図3 タクシードライバーの1日1台あたりの営収対2018年比
ライドシェア対策は有効だったのか
結局、ライドシェア対策はライドシェア的なことでもありました。例えば、事前確定運賃、ダイナミックプライシング、相互レイティング、そして第2種免許です。2種免許緩和は1種免許でのタクシー乗務を可能にする、という案まで出るようになりました。つまり従来のタクシーの否定です。そして徐々にライドシェア的になっています。
2種免許の必要性を国会でも説いていたのに、業界が自ら否定する、そんなライドシェア容認する発言がされる現状なのです。
安全、安心な運行が一番に考えられなくてはなりません。そして、安定した供給、そのタクシー的なことがライドシェアにできるのか、ということなのです。
問題はタクシー不足なのです。過疎地で行われている自家用有償運送もタクシーやバスがないからです。そこを忘れて、そして2016年の約束を忘れてはいけないと思います。
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