タクシー不足のもうひとつの原因
タクシー不足は運転手不足が第一の原因です。その運転手不足はなかなか解消されそうにありません。いえ、もう解消されることはないかもしれません。深刻化するタクシー不足について、今回は、個人タクシーの稼働率から考えてみます。
高い賃金
運転手不足からの需給ギャップの拡大は、運転手の賃金を押し上げています。
その証拠に「タクシーが来ない」「予約が取れない」という声がある一方で、運転手の賃金明細がSNSにアップされ、その高い賃金が話題になっています。
確かにボクのデータでも、日車営収(1日1台当たりの営業収入)は、過去最高の数値になっています。(図1)
図1 タクシー運転手の日車営収2018年比
ところが、実働率は、2018年比で80%台にとどまっています。つまり2018年の80%の供給量だと言えます。(図2)
図2 タクシー稼働台数2018年比(著者作成)
需要量はどうかというと、全体の営業回数は2018年比で100%を超えて110%になっています。(図3)このことは、需要量も増えていると言えます。
図3 タクシーの営業回数(著者作成)
需要量が増加しながら、80%の供給量しかない、この需給ギャップが実車率を押し上げ、その結果運賃収入が増えているということです。そして、昨年からの一連の運賃値上げが日車営収を130%に上げている、ということになります。
そして実車率の増加は空車率を下げるので、空車車両が少なくなります。つまりタクシー不足になるということです。
さらに、需給ギャップ拡大による日車営収の増加は、実働率を少しだけ下げます。なぜならば、長時間労働しなくても稼げるからです。
タクシー不足の原因
ここまで考えたことをまとめると次のようになります。
- 運転手不足
- 運転手不足から実働率の減少
- 実働率減少から需給ギャップ拡大
- 需給ギャップ拡大から実車率上昇
- 実車率上昇から空車率減少
- 実車率上昇から実働時間減少
つまり、運転手不足なのです。
個人タクシーの実働率
問題化されているタクシー不足の「タクシー」には、法人事業者と個人事業者があります。問題は、その数よりも全体数に対する個人タクシーの比率です。次の図4と5は、法人と個人タクシーの車両数のグラフと、個人タクシー事業者数(≒台数)/全体数、個人タクシー率です。
図4 法人タクシー、個人タクシー車両数
図5 個人タクシー率(個人台数/全数)
例えば、その比率が少ない地域では個人タクシーの実働率がその地域の需給に及ぼす影響は少ないでしょう。
ところが、東京のようにタクシー4台のうち1台(25.7%)が個人タクシーという高比率になると、その実働率が地域の需給率に影響を及ぼすようになります。
4台に1台の内訳
台数もですが、その中身も問題になります。まず、東京の個人タクシーの1か月の実働時間を試算してみます。
拘束時間の上限を299時間(改善基準告示)1とします。
- 個人タクシー 10,526台×299時間=3,147,274時間
- 法人タクシー 30,479台×299時間=9,113,221時間
ですが、法人タクシーの2車3人制や1車2.5人制は、理論上1台1日24時間使用できるので、つまり、実働率100%では、
- 30,479台×(24時間×30日)=21,944,880時間稼働可能になります。
この状況では、個人タクシーの実働率は問題化されません。なぜなら全タクシーの実働時間25,092,154時間のうちマックス3,147,274時間、すなわち12.5%程度の実働比になるからです。
ところが、法人タクシーの実働率が(運転手不足で)激減すると、その比率が増加します。このことが問題を深刻なものにしてゆきます。
タクシー不足の遠因
つまり、タクシー全体の実働率に占める個人タクシーの実働率の比率が高くなればなるほど、個人タクシーの実働率がタクシー不足に影響を及ぼすようになるのです。
いえ、このように回りくどく計算しなくても良いのです。4台に1台は個人タクシーなのです。個人タクシー事業者が1台休むと25%も実働率が減少するということなのです。今日の供給不足解消は、その25%の実働率にかかっていると言えます。
ピンチのところで個タクさん
いえ、稼働率を上げろ、というのではないんです。忙しい時に出庫すればいいと思います。忙しい時=供給不足なので、ここが個人タクシーの出番なのです。
ダイナミックプライシング、のような働き方、ダイナミックワーキングが個人タクシーの働き方なのですから。その働き方は、需給の調整弁として、業界のピンチを救ってきた、そう考えています。現在、またピンチです。このままではおそらく、ライドシェアの流れが大きくなるでしょう。そうなる前に、ピンチのところで角盈男2、ではなく、個タクさん、なのです。
長くなりましたが、ダイナミックな働き方こそ、個人タクシーの働き方ではないかと。そしてそれがタクシー業界を救うことになるのではないかと、考えています。