女性タクシー運転手が多い理由
富山県は女性タクシー運転手の構成比率が高いそうです1。
今回は、女性運転手が多い理由を概括してみます。
中村真由美(2021).「富山パラドックス: なぜ富山県では女性就業率は高いのに女性管理職率は低いのか?」『富山大学経済論集』 富山大学経済学部2、のみを参考文献にし考察してみます。
富山県での女性就労状況
女性の就労率が高い理由について「富山パラドックス」では次の点をあげています。
工業化による労働機会の多さ
女性(15~64歳)の有業率は全国4位と高い。
富山県では、豊富な水資源・水力発電による安価な電力・製薬業や高岡銅器の中道技術・北前船の歴史を持つ良港の存在などを背景にして早くから工業化が進み、製造業が盛んになっている(日本銀行富山事務所 2010)
三世帯同居比率の高さ
三世代同居率は全国5位と高い。
富山県では三世帯同居率が高いことから、家事や育児について祖父母からの支援が得られやすく、就業を継続しやすいという事情がある。
女性の有業率の高さ
富山県における女性(15~64歳)の有業率は全国4位と高い。
女性正社員割合も全国3位(平成29年)と高く(富山県2021)、共稼ぎ率も全国3位(平成29年)と高い(総務省統計局2018)。
これは製造業だけではなく他の業種においても同じことが言えます。つまり、他の都道府県より女性のタクシー運転手構成比も高い、と言うことです。
図1 (図表4:富山県における女性(15〜64歳)の有業率3
タクシー運転手の女性構成比率
富山県のタクシードライバー数は892人で、そのうち女性が107人です4。女性の構成比率が12.0%です。これは全国1位の数字です。2位の島根県の7.9%ですから、多いと言えます。(ちなみに、私の勤めているタクシー会社は5%程度です。)
この理由も、これまで述べてきたことから説明ができます。
図2 都道府県別 全タクシードライバー数と女性構成比(ハイタク連の資料を元に作成)
タクシー運転手の特性
これは、多様な働き方ができることにあります。そして問題視される高齢化も、多様性のひとつです。健康でさえいれば75〜80歳まで働くことができます。
そして中高年の転職者が多い職業です。このような多様性は、富山のような有業率が高く、就業環境が整った(働かなければならない)地域では、第一、第二次産業退職者の転職先になっていると考えられます。そして、人々もまた転職先としてタクシー会社を必要としてきたのでしょう。
富山交通株式会社が昭和36年「全国で初めて、女性タクシー乗務員の雇用を開始」した5のも、このような理由からではないのでしょうか。
女性運転手が多い理由
以上のことから、仕事があり、結婚後も共働きで仕事を続けられる(続けなければならない)環境があることが、富山県での女性の就業率が高い理由と考えられます。つまり、富山県で女性運転手が多い理由は、女性の労働機会が多いことと、働ける(働かなければならない)家庭環境だということです。それはタクシー運転手としての就労だけではなく、全産業でのことです。つまり、女性が働く環境、働かなければならない環境があるからです。
これまで、タクシーでけではなく、トラック業界も運転手不足の解消の方策として「女性の活用」を行ってきました。それでも、さらに深刻化している理由は、業界内部や労働環境、職場の問題だけではなく、家庭や街といった社会の仕組みが必要だということを、この「富山パラドックス」は示唆しています。
いえ、「働かなければならない」環境をつくる、ということではなく、「働ける」環境をつくる、という意味でです。
図3 都道府県別 運転手数順タクシードライバー数と女性構成比率
流動化と多様な働き方
富山県は、女性就業率の高さと、その理由である同居率の高さが、働ける(働かなければならない)環境をつくっています。それは、労働市場が流動化されているということでもあります。
それだからこそ、タクシーという異業種からの転職者の多い業種が受け皿となった/なっているのでしょう。このことから、結婚後の産休、育児、そして再就職という流れも必要になるのではないかと考えています。つまり、タクシーのような多様な働き方ができる職業こそ必要なのです。
しかし、安全性ということに不安があり、事故という高いリスクがあります。ここをどう排除するかが、タクシー業界の課題なのだろうと、思っているんです。
あと、女性に対する意識はどうなのかというととや、パワハラセクハラはないのか、という問題は、次の機会に考えてみます。


法人タクシーの事業者団体 全国ハイヤー・タクシー連合会 (全タク連)