タクシーの「ロングを引く」確率についての一考察
タクシーのロング客とは、長距離の利用者のことです。タクシー運転手の賃金は運行収入によって決まります。その運行収入は 客単価×回数 です。距離=運賃ですから、ロング客は客単価が高くなる、ということになります。しかし、長距離走行は時間を要します。つまり、回数が減少します。また、営業区域を出てしまうと、空車後の乗車機会を失います。
本当にロングは美味しいのか?逆に、ワンメやコロと言われる短距離の利用者は儲からないのか、そんなメーター運賃の仕組みと賃金、ロング客に当たる確率について考えてみます。。まずはじめに客単価の中身を概観してみます。
客単価を考える
客単価は、料金+運賃です。
料金には迎車料金、時間予約料金、優先配車があります。これらは、配車に対して付加します。つまり、同じ距離を走行するのならば、配車のほうが支払い合計が多くなります。次の図1が示す通り、①の乗込みより②の迎車料金を含んだ運賃、さらに③の迎車料金と時間指定予約料金が加算されたものの方が高くなります。
図1 運賃と各種料金加算時のタクシー料金推移グラフ
その運賃は初乗運賃+距離運賃の合算になります。距離運賃は走行距離と待ち時間時間に連動します。この距離運賃は、初乗り距離を超えると、一定の距離毎に一定の運賃が加算されます。具体的には、初乗り1096メートルまで500円、以降255メートルごと100円が加算されます。(東京武三地区、記事ではこの運賃を例にしています)
運賃=距離と運賃≠距離
そのため、運賃=距離が成立します。しかし、初乗り運賃と加算運賃の二階建ての制度は、運賃≠距離も併立します。
どういうことかというと、例えば、加算運賃は1メートルでも255メートルでも同じです。このことは、初乗運賃も同じです。到達距離以前に降車すると乗り捨てが発生します。(タクシー運転手からでは降り得です)図2は、このことを図式化したものです。青い線が従量制運賃になります。一定の距離(初乗りの場合1096メートルまで、爾後255メートル)以前で降車すると、乗り捨てが発生します。
図2 タクシー運賃 初乗り加算定額制と従量制運賃比較表
このように、タクシーの運賃は常に乗り捨て部分を発生させながら、その部分をタクシーが得をしていると考えることができます。この運賃制度を効率的に稼働させると、図3のようになります。つまり、距離=運賃でもあるし、距離≠運賃でもあるのです。
図3 乗車距離・回数ごとの運賃比較表
図3について説明します。
橙色は一組の利用者が、そのまま6,000メートルまで乗車した場合です。6,000メートルで2,500円になります。
緑色は初乗り1,000メートル毎に5組の乗車した場合です。最短で4,500メートルで2,500円に到達します。
赤色は初乗り1,000メートル未満の利用者が5組乗車した場合です。2,000未満で2,500円に到達します。
青色は100メートルの利用者が5組乗車した場合です。500メートルで2,500円になります。
回送距離の重要性
このように、走らない方が得、ということもあります。それは距離=運賃の否定です。そして私たちの言う「ワンメ」や「ゴミ」の否定でもあります。ようするに、回送距離の問題なのです。回送距離が0メートルの場合にはワンメやゴミのほうが効果的に稼げるということです。そして距離実車率100%になるということなのです。それが、図3で示したことです。
その回送距離こそ、運転手の能力次第なのです。そして、それこそ配車アプリを活用した配車効率と生産性を向上です。
これまで、実車距離ばかりが語られてきました。そしてその距離の長短により一喜一憂していました。回送距離への着目が少し足りなかったのかもしれません。
確率と平均の話
実車距離による一喜一憂は、「ロングを当てる」とか「ロングを引いた」というタクシー用語に象徴されています。そしてその「当たり」が「ワンメ」や「ゴミ」という対立語を作りだしているとも言えます。つまり、当たり外れがある「くじ」なのです。
となると、もう確率の話になります。(「つき」も実力のうち、で、その当たりくじを引く努力や知識は否定しません)
当てる確率
10組の利用者のうち1組の「当たり」があるのなら、「当たり」を引く確率は10%です。
その「くじ」を2回引くとします。確率の乗法定理により、0.1×0.1=0.01になります。つまり、2回とも「当たる」確率はわずか1%なのです。
では、10組の利用者のうち1組が「当たり」で、1組が「はずれ」とします。残り8組は「普通」とします。このくじ引きを、同じ条件で10回引くとします。毎回10組で1組の「当たり」と1組の「はずれ」があります。この条件で「当たり」を引く確率は、各回で10%です。よって期待値は、次のようになります。
期待値 = 試行回数 × 各試行での成功確率 = 10 × 0.1 = 1回
つまり、10回営業をして1回だけなのです。たまたま何回か当たる場合もあるでしょうが、確率的には1回になります。(この条件を変えることはできますが)
まとめとして
- 回送距離の問題なので、実車距離が「長い」「短い」は売上には影響しない。
- 回送距離を短縮し距離実車率の改善をする。
- 長距離より短距離のほうが乗り捨て分お得です。
- 迎車料金はお得です。
- 走らないほうがお得です。
- 「当たり」「はずれ」は確率の問題であり、長期間的には回数に比例する。
- 1か月、2か月…1年、2年…で考えると、今日の「はずれ」は明日の「当たり」なのだ。
ということになります。結局、利用者を距離で「当たり」「引いた」と、そして「ゴミ」「ワンメ」なんて考えないことだと、思うのだけれど。そしてあまり意味がないことだと思います。引きが弱いのは、あなたの弱さなのだろうし…。ね、きっと。

