時間外労働の割増賃金率が50%以上に引き上げられます

タクシー運転手の賃金は出来高制です。そしてタクシー運賃はメーター距離制なので、距離=売上=賃金になります。距離だけではなく、単価や回数という要素がありますが、多寡は時間によって支配されていると言えます。

その支配が、自発的に残業をする傾向を高めます。そのため、拘束時間1の上限2を定め長時間労働を抑止している状況です。

このように、規制が必要になるほど労働時間が長いのがタクシー運転手です。その主因は出来高制歩合給という賃金制度です。

4月1日から月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます。(大企業ではすでに施行されていました)次の図1のようになります。

月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます 厚生労働省パンフレット
図1 中小企業の月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率が50%になります 厚生労働省

タクシーの賃金の話

タクシー運転手の賃金は、その仕組みがとても複雑に設計されています。

タクシー運転手の賃金についてタクシー運転手の賃金は歩合給であることが多いです。そしてその仕組みは複雑です。 これは、事業所外の労働で、かつ、営業活動まで運転者にゆだねていることから、いかに自発的な労働…
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タクシー運転手の賃金について

しかし、歩率50%とか60%なんて数字で単純化されてもいます。どういうことかというと、歩率で決められた総支給額から逆算して明細調整をするのです。

例えば、歩率50%とし運行収入50万円の場合、

500,000円×50%=250,000円

この25万円が総支給額になります。

しかし、この運行収入50万円は、同じ労働条件での結果ではありません。労働時間、深夜労働、残業の有無、休憩時間の長短など、その中身が違うはずです。

また、基本給がある設計では、割増賃金はその基本給にかかるものとそうでないものを分けて算出しています。

国際自動車裁判

こういった裁判が起きる原因も、賃金制度の複雑な設計が原因です。給料明細でその違法性が即座に判別できれば運転手たちも苦しまずに済んだのです。

ボクも、判決文から賃金設計をエクセルに組んで、どうにか理解できました。問題化された箇所が分かっていたにもかかわらずです。

国際自動車裁判 賃金計算表
図2 国際自動車賃金計算表

国際自動車裁判で考える賃金の複雑さ

残業分歩合減、運転手と和解金4億円で合意 国際自動車:朝日新聞デジタル

残業代の問題

ここで、先に記した歩率50%、運行収入50万円の例をもう一度使って考えてみます。

あるタクシー会社に、運転手AさんとBさんがいます。

この3月、Aさんは70時間、Bさんは30時間、ぞれぞれ残業して最終的に月の売上が50万円になりました。その最終日に同じ時間に帰庫した二人は「めずらいいこともあるね」と話しました。

その後、給料明細を手にした二人は、明細を見せ合うことになりました。そこで、Aさんが「あれ、変だなあ」とBさんに言いました。

Aさんが「変だなあ」と思ったところは次の表の残業の部分です。

Aさんの残業はBさんよりも40時間多かったのです。しかし、総支給額はどちらも25万円、しかし明細の時間外手当はAさん18,235円、Bさん9,375円だったのにです。

タクシー運転手 残業代問題 内包される割増賃金例
図3 タクシー運転手の残業代問題 内包される割増賃金

図の黄色い塗潰しの枠です。

結局、オール歩合給なので、売上=賃金なのです。

歩合給では、売上×歩率で労働内容がどうであれ、賃金は同じになる、それで良いのでしょうか。「残業分歩合減」と言われる国際自動車の例ではないのでしょうか。

月60時間を超えた場合の残業代

これが許されるのなら、4月1日から月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられたとしても、結局同じことになるのではないのでしょうか。

タクシー運転手残業代問題 60時間超の割増賃金の場合
図4 残業時間月60時間超の場合の残業代

これでは、60時間とそれを超えた部分を形式的に分割して、形式的に計算した、だけで、結局は歩率50%だけになってしまいます。

どれだけ残業しても、どれだけ深夜労働しても、出来高が同じなら賃金も同じ、というシステムなのです。

「自発的な労働を引き出す」という出来高制長時間労働給なのです。休日割増や深夜割増を正確に算出したとしても、結局は歩合給(表では売上手当)で調整すれば同じことなのです。

運賃だけではなく賃金も認可制に

そのように考えると、ボクは、同一地区同一運賃であるのに、歩率や賃金制度に幅と謎が多すぎるタクシー事業は、賃金制度も認可制にして労働者からの搾取を止めなければ、いつまでたっても安心安全な労働条件や労働環境は構築できるはずがなく、運転手不足は解消なんてされない、そう考えています。

タクシー運転手の月間労働時間推移、年間水準賃金表
図5 タクシー運転手の月間労働時間の推移と年間賃金水準3

(令和2年、3年はコロナ禍での数字になるため、労働時間=賃金とも減少しています)

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