乗務員負担と受益者負担
タクシー業界には「乗務員負担」というものがいくつかあります。今回は、タクシー業界の乗務員負担と受益者負担について考えてみます。
例えば、事故修理代、高速道路料金、無線使用料、チケット換金手数料、障がい者割引などの割引負担などです。そして、キャシュレス決済の手数料もそのひとつです。
乗務員がクレジットカード、交通系ICカード、QRコード、信販系タクシーチケット等のキャッシュレス決済の手数料を個人負担させられる会社あり。 本来会社が負担すべきもの。
スーパーのレジ打ちスタッフが手数料負担する?— 東京無線連絡協議会 (@tokyomusenrenra) April 3, 2023
「悪しき慣例」と言われていますが、廃止できない理由もあります。それが受益者負担という考え方と出来高制歩合給による賃金制度、この組み合わせだからです。
受益者負担とは
はじめに受益者負担とはどういったものなのか概観してみます。
地方自治体の提供する公共サービスは,広く住民の皆様から徴収した税金により賄うの が原則ですが,サービスにより利益を受ける方が特定されるものについては,全てを税金 で賄うと,サービスを受ける者と受けない者との不公平が生じることから,サービスによ り利益を受ける特定の方に,受益の範囲内で,使用料や手数料などを負担していただくこ と(受益者負担の原則)を基本的な考え方としている。
タクシーの受益者負担も同じような考え方です。
サービス(キャッシュレス決済)により利益を受ける運転手が、使用料や手数料を負担するということです。同様に、事故修理代なども受益者負担になります。なぜならば、事故惹起者が修理代金を負担することによって、それ以外が受益者になるという考え方だからです。
受益者の拡大
ただし、事故修理代については、「それ以外が受益者」になるというよりは罰則金です。同じく、設備機器使用料についても設備投資を運転手に負担させています。こういった分かりやすい乗務員負担はなくなりつつあるようです。
つまり「分かりやすい」というよりも、その設備機器がタクシー事業に必要不可欠になったからです。「利益を受ける方が特定されるもの」ではなくなり、全員になったからに違いありません。
ただ、キャッシュレス決済については、使用率が30%程度(ボクの感覚ですが)です。ここ数年でキャッシュレス化を加速させていてもその程度です。つまり、受益者率が30%という多数ではないので、不公平さを生じさせないために負担させている、そのように考えることができます。
(キャッシュレス決済だけを抽出して賃金計算をするのは手作業なんでしょうか?その作業負担も大きいと思うのですが)
賃金制度との関係
タクシー運転手の賃金は出来高制歩合給です。すなわち、運行収入×歩率=賃金ということです。歩率は各社違っていて、45%〜65%と差があります。これは、10万円の売上が45,000円〜65,000円の幅で支払われているということです。
- 100,000円×45%=45,000円
- 100,000円×65%=65,000円
例えば仮に、歩率65%の会社の運転手が、タクシー利用者30%のキャッシュレス決済の手数料を5%負担したとします。乗務員負担は次の通りです。
100,000円×30%×5%=1,500円
このように、10万円の売上に対して1,500円がキャッシュレス手数料になります。
したがって、賃金は63,500円になります。それは歩率63.5%と同じことになります。キャッシュレスでの支払いが100%になったとしても、負担は5,000円です。1そしてそれは60%の歩率です。2 45%よりははるかに高い歩率です。
業界の宿痾
このように、負担と言われる手数料が歩率に収束されてしまうのです。この出来高制歩合給という賃金制度こそ、乗務員負担という「悪しき慣例」を廃止できない理由なのです。業界の宿痾なのです。
受益者負担という乗務員負担は、出来高制歩合給という賃金制度によって公平性や正当性を担保されています。解決を遅らせている原因は、同一交通圏同一運賃でありながら、歩率に幅があり、賃金制度が複雑であるからです。
図1 運賃と運転手手数料の関係図
次は「キャッシュレス決済手数料の乗務員負担は違法なのか?」ということについて考えてみます。