運賃と賃金の沈々とした問題なのだ
「知恵の結晶」(*1)と言われるタクシー運転手の賃金の仕組みについは「タクシー運転手の賃金について」で説明を試みました。そして何度かブログにも書いてみました。
その「知恵の結晶」と言われるようになった理由は、賃金の分りにくさ、にあります。タクシー運転手の賃金は、運賃収入に歩率を乗じたものになります。
今回は、タクシー運賃から賃金について考えてみたいと思います。
1.賃金5類型
図1のように、5つの類型に分類したとしても、労働条件は歩率の違いに収斂されます。
例えば、決済手数料5%を乗務員負担としたとしても、賃金歩率が5%高い会社のほうが「賃金が高い会社」と考えられます。
2.タクシー運賃
公共交通であるタクシーの運賃は、消費者と事業者の双方を保護するため規制されています。総括原価方式、同一地域同一運賃規制もそのためです。
3.消費者保護という原則
歩合給下の乗務員の行動パターンは、消費者保護や総括原価方式という運賃のあり方と利益という点で相反します。車椅子利用者への乗車拒否がその一例です。あるいは、障がい者割引の問題も同じです。利用者の少ない地域での営業時間短縮もです。
ようするに儲からないことはやりたくない、というバイアスがかかります。
時間=賃金
距離=賃金
割引=賃金
このように、時間も距離も割引も全て賃金に直結します。つまり、マイナス要因については忌避する傾向が強くなります。
4.事業者の適正利潤確保という原則
タクシー運賃は総括原価方式で決まります。これは(公共という性質上)利用者の利益を確保(利用者保護)のため、もうけすぎないような運賃設計を行っているということです。
総括原価方式主義をとるならば、タクシー事業者が笑いが止まらないほど儲からないはずです。運転手もそんなに儲かる職業ではない、と考えられます。(現にそうですが)
儲からない運賃制度に歩合給という儲けなければならない賃金制度、この矛盾(利益相反)が、保護すべき利用者の利益を侵害するという結果になっているのです。
5.そして運賃と賃金の問題なのだ ち~ん
運賃制度と賃金制度、このタクシー業界を支えている2点だけでも歩合給は問題だ、そう思うはずです。
賃金制度がタクシー業界の発展と進展を阻害してきたました。そして歩合給に起因する運転手の行動が批判されてきたのです。
さらに、この歩合給こそが事業者の経営を緩慢にし、そのつけを運転手に押し付け貧困をもたらしました。
総括原価方式で利潤が確保できているはずなのに、それ以下の労働条件(歩率)や、職場環境(新車導入率の低減=品質の低下)、運転手負担、あるいは年休の不支給、UD講習や運転手講習という運転手教育の未実施・・・・・・、という悲劇が起きていた、そして起きているのです。
6.歩合給のジレンマ
歩合給と言う成果主義と職務主義であるタクシー事業は相容れないものがあります。それが(公共事業における)歩合給のジレンマです。
では、自由競争にしていいのかというと、公共財に自由主義を導入するとどうなるかは・・・。となると、現在の運賃制度で賃金制度を変えることが正しいように思います。
そうすれば総括原価方式による正しい運賃が算出されるのではないでしょうか。原価の70%をしめる人件費の算出方法に瑕疵があっては、正しい運賃なんて求められません。
ボクがかねてより主張している固定給、それも年収での賃金制度は、この総括原価方式主義によるものなんです。ただ、一律同一賃金なら、今度は働かない人が出てきて…。というジレンマの結果が「知恵の結晶」を生んだのですが……。
ということで、また沈々とした気持ちになっているのです。ち~ん。
参考文献
*1 『総合研究 日本のタクシー産業 現状と変革に向けての分析』(慶應義塾大学出版会)
慶應義塾大学出版会 | 総合研究 日本のタクシー産業 | 太田和博 青木亮 後藤孝夫 泊尚志 松野由希 加藤一誠 川村雅則 青木淳一 田邉勝巳 安部誠治 中村彰宏