運賃と賃金の沈々とした問題なのだ(2)
タクシー運賃と賃金の関係について考えてみたのですが、読み返してみるとどうも分りにくいので、再度考えてみました。
1.総括原価方式での運賃
図1はタクシー運賃の決定方法です。
図1 タクシー事業に係る運賃制度について 国交省 より
運賃(公定幅の上限運賃です)は、タクシー事業の経営に必要な営業費に適正な利潤を加えた総括原価を求め、総収入がこれと等しくなるように運賃水準を決定する「総括原価方式」が用いられています。
営業費+適正な利潤=収入
となります。
つまり、利潤は「適正」であるはずです。その適正利潤は総原価の2%~3%程度の構成比とされています。(*1)
(公共料金は利用者保護と事業者保護の両面でこ総括原価方式での料金設計が行われています)
2.適正な利潤にしかなりません
要するに、もともとそんなに儲からない設計を行っているということです。会社が儲からないのに、運転手が儲かるわけがありません。
たとえ、長時間労働、低賃金だとしても、それは予定されていたことなので、国も会社も問題にしないのは、それが総括原価方式において「適正」だからです。
3.歩合給に固執する理由
その予定され適性とされる低賃金ですが、高収入が認めれることがあります。
それが長時間労働と歩合給という方法です。
つまりこういうことです。運賃は「適正」な労働時間(1日8時間)での賃金で設計されます。
その1.7倍の299時間(改善基準の上限)まで働けば、「適正」+{(適正賃金×1.7)×1.25}までが「適正」の範疇になります。
また、歩合給制は予定外の高収入をもたらします。
例えば、「営業収入60万円、歩率60%で36万円」という賃金設計をしたとしても、100万円を越す月もあるでしょう。36万円という設計値を超えて60万円の賃金になっても「適正」です。
長時間労働と歩合給の結果として、たまたま設計値を大幅に超えた、という理由です。
4.固定給だと全体の不利益になる?
しかし、総括原価方式という運賃設計を理由に歩合給にしているわけではありません。
これまでも幾度となく述べてきたようにタクシーのルールの多くは「性悪説」によるものです。なぜならば「事業所外の労働で、かつ、営業活動まで運転者にゆだねている」(*2) 職場環境で、さらに「固定給」での賃金制度にすると、働かない人が出てくる、ということです。
5.ああ、やっぱり歩合給かあ
以上、二日続けて運賃と賃金について考えてみましたが、歩合給という成果主義だからこそ「稼いで良い」ことになります。
「適正な利潤」を大幅に上回ったとしても、それは設計図にはない所定外労働を行った結果ということになり総括原価方式と整合性が取れるということです。
やっぱり、歩合給から抜け出すことはできません。運転手も自由で歩合給のほうが幸せなんでしょう。月給50万円、年収600万円を適正な利潤として運賃に上乗せするのは、難しいことなのかもしれませんね。
難しい=社会が認めてくれない、そう思っています。
参考文献
*2 『総合研究 日本のタクシー産業 現状と変革に向けての分析』(慶應義塾大学出版会)