そして一番札所霊山寺(1日目の2)
霊山寺に着いた。車に乗って。
それは、霊山寺を目指して県道12号線を歩いている時のことだった。いきなり車が停まって「霊山寺までですか、乗って下さい」と、おじさんが助手席の窓を開けて話しかけてきた。
そしてボクは少し考えたのだけれど「じゃあ、お願いします」と乗り込んだ。まだ巡礼は始まっていなかったし、きっとボクのような「板違い」をする人が多いのだろうと思っていた。
「結願して霊山寺ですか?」
「……。あ、いえ、板違いで」
「?」
「あ、板東かと思って降りたら、板野駅だったもんで、歩いていたのです」
「ああ、そうですか。じゃあ、今日からですか」
「はい、最初からこんなんで……」
「12号線を霊山寺に向かっている人はだいたい結願後にお礼参りの人が多いもので、てっきりそうかと思って……」
「すみません」
霊山寺の門の前まで送ってもらった。
このように初めてのお接待が、ボクのミスからのものだったなんて、と、少しショックを受けて、そしてそのことで更に、少し緊張が増して、そしてなによりも時間は過ぎるし、迷ったことと戻るということで、疲れてしまった。
それから、霊山寺の門前にある「門前一番街」にて遍路用品を買った。14450円で全てを揃えた。霊山寺の中にもあったということをお寺の中に入って初めて知った。どちらが良いのか分からないし、気持ち的には正装をして門をくぐりたい、ということもあるのだけれど、お寺のほうが霊験あらたかなようにも思うし…。どうなんだろう。
とにかく始まったのだ。
(1番札所霊山寺にて 日曜日の霊山寺は賑わっていました)
日曜日の朝、それも大安吉日快晴、霊山寺は賑やかだった。
いや、賑やかというよりも、少し混雑していた。ボクは緊張していたのだけれど、どうにか本堂、大師堂で納経することが出来た。読経も来る前に何度か聞いて声に出していたので、すんなりできた(と思う)。
それでも初日は門前一番街の店の人が「(1)開経偈(2)般若心経(3)十三佛真言(本堂のみ)(4)光明真言(5)大師御宝号(5)回向文を唱えて下さい」と言われたので、他の合掌禮拝、懺悔文、三帰ほかは唱えなかった。そういった余裕もなぜだかなかった。とにかく、その作法を辿ることで精一杯の一日だったように思う。般若心経以外のお経は初めて見聞きするものばかりだったので、なんだかお経というよりも、不思議な外国語のように、聞こえたのだろうし、そう思った。
いろいろなことが、一番札所霊山寺までに起きた。
それでも岡山駅からまだ5時間ほどしか過ぎてないのに、5日も6日も過ぎたように感じた。そしてボクは板野駅の方向に歩き始めた。少し前に来た方向に。
結願後にお礼参りに来たときに、ゆっくり霊山寺を見ることが出来た。どうもよく覚えていない自分がいた。それぐらい初日、一番札所は緊張もしていたのだろうし、間違ったと言うことで少し焦ってもいたのだろう。
まだ始まったばかりだった。気温も上がっていった。半そでに白衣という姿だった。
(一番札所霊山寺にて、買ったばかりの金剛杖とボクの手)