最低賃金額改定で考えたこと

「九州のほうが物価が安いですよね」

なんてSくんが言ったことがある。

そう思っているのは彼だけではなくて、きっと7割とか8割の人が、例えばここ豊橋よりは熊本や佐賀なんて地域のほうが「物価」が安いと思っているに違いない。

「そんなことはないよ。豊橋のほうが生鮮食品の価格は安いと思うよ。キャベツなんて100円で丸ごとあるし、今の時期ナスなんて5本で100円とか。家賃だって3万円以下の物件だってけっこうあるしね。農業、工業ともども発展している地域は、雇用はもちろん物価も安定していると思うけれど・・・」なんて答えた。

賃金=生活給なんて思想から抜け出せないもんだから、物価が安ければ賃金も安くて当たり前、なんてことを思っている人が多い。グローバル化なんてことを声高に話したことろで、国内はいまだにローカル意識から抜け出せないでいる。きっと五家荘とか高千穂なんて山間部の人々は自給自足していて物価なんて概念がない、なんて思っている人もいそうだ。

熊本県の694円、愛知県の820円、その差126円。それだけの物価差があるわけがない。熊本県内のイオンでは全製品愛知県の85%で買えるなんて話も聞いたことがないし、ドコモやauの通信料、家電製品、ユニクロ、ガソリン代に電気料金が安いなんてこともない。

供給量が少ない分、例えば家賃なんてのは高い。安いのは、というか、自然とか人情とか安全なんてものが無料なだけで、こんな資本経済の消費社会どっぷりの国で物価の地域差なんてのはない。

物価だけ地域差がなく全国一律なのに、賃金だけは差を付けるんだから、最低賃金制度ってのは良いことなのか悪いことなのか、まったく分からなくなる。「これだけ払っとけば良いんだろ」なんて労働者を守るというよりも、使用者側のパワハラ強弁の根拠になっているようにも感じる。

特にその被害者は非正規雇用で働く人たちで、例えばコンビニのアルバイトの人たちは同じ仕事をしているにもかかわらず(売上次第では地方のほうが忙しい場合もあるのだけれど)、その差で働かされていることを考えると、これはもう賃金格差なんてことではなくて人権問題なのだ。

そうして年に一回20円とか30円のアルバイト代の昇給があったところで、実はそれは最低賃金の上昇分だったりして、何十年働いても1000円なんて額にはならない。もうこれは悲劇というよりも喜劇で、一億総玉砕社会なのだ。企業も国家もいかに国民を欺いて使用するか、というのが実は政治と経済のテーマのようだ。

なんてことはすでに何度も書いたのだけれど、どうせ非正規から抜け出せないんなら、もう滑りっぱなしの社会ならば、同一(価値)労働同一賃金の前に、同一国家同一最低賃金をすぐにでも始めてくれないと、ボクたちはもう国家なんてことは考えられないし、閉塞感とか絶望感とか無力感なんて、とことんマイナスな思考がボクたちの周りの空気に充満するに至っては、行動は利己的になるに決まっている。

第46回中央最低賃金審議会で、28年度の地域別最低賃金額改定の目安が発表された。Aランク~Dランクなんてランク分けされて、25円~21円の引き上げが行われるらしい。
愛知県はAランクで25円の引き上げだ。それを喜んでいる人がいるとしたら「馬鹿だなあ」なんて思う。

いくら頑張ってもAランクにはならない、ということを国家が「経済的状況」なんて理由で差別しているんだから。それって、例えばF難度の技を決めてもC難度としか認められないオリンピックの体操みたいなもんだよ、なんて考えているんだけれど。

それでも「だって上昇だし」なんて言っている人がいるとしたら「間抜けだなあ」なんて思っているんだよ。

豊橋野菜にて朝食を

住めば都、っていうけれど、そこに住んでいる人たちは「良さ」を分かっていなかったりする。
その良き地元産の野菜で・・・。

平成28年度地域別最低賃金額改定の目安について |報道発表資料|厚生労働省

2件のコメント

  • blank

    さといもさん、どうも。
    ボクは、最賃の地域差なんて差別を、政労使だれひとり手を付けなかったのかなんてことが分からないのです。
    国の言う「経済状況」ってのは、結局は求人倍率ってことなんだろうし。だったら賃金も受給によります、なんてはっきり言えばいいのに。
    儲かる業種に国家が高賃金で国民を誘導していて、それは「人の秘めている力や人生などを無視して」とにかく経済という税収だけが国家の豊かさなんだという愚かしいロジックのせいなんだろうと、思っています。

  • blank

    こんばんは。
    基本的に地域による賃金の差は将来的に解消しないといけないとは前々から思っています。
    主に中小零細の経営者や一部の学者がそうしたら破綻する業者が増えてかえって経済に悪影響を与えると言いますがある程度悪いところは消えてもらってもいいのではないでしょうか。
    一気に変えると影響が大きいので段階的にやるといった配慮は必要ですが。
    地域による物価の差は家賃(というより不動産全般といえばいいか)を除けば地方だからといってそう安くはないし競争が少ない、元々の客が少ない、輸送費などでかえって高い場合も決して少なくはありません。
    自動車の販売価格も北海道と沖縄は若干高くなっていますしJRの運賃も本州3社と比べて北海道四国九州は若干高い。
    地域により価格を変えている大手業者にしても地方を安くするというより大都市圏の一部を他より高くするといった設定が多いのではないでしょうか。
    同一労働同一賃金は基本的には賛成ですし国民全体でもその意見が大勢のようですが実施している国によって運用に違いがあるし何から何までそっくり真似する必要はありません。
    導入されると賃金に一切右肩上がりの要素がなくなるのではないかといった危惧もありますが昇級昇格には年数や経験も考慮されるのでその心配はないと思っています。海外でもそこは多少は反映されているようです。
    どんな仕事でも経験は大事、誰でもできる簡単な仕事だから経験なんて関係ないといった意見は人の秘めている力や人生などを無視している。
    逆に同業種での転職において他社での経験が必ず反映されるようになればかえってよいと思う。
    今の転職だとスキルが極めて高い方は別としてそういった点が反映されない事が多いですので。
    あと賃金が下がる方が一定数出てくると思いますがここも段階的に新しい制度に変えていくといった配慮は必要です。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA