電車の中で移り行く景色を見ながら考えた。
智に働けば角が立つ…、じゃない、それは「草枕」。
考えたのだよ、昨日の続きを。
要するに実態がないものを実態化する作業が恋なのであって、恋なんてものは最初は存在しないもの、で、過去に遡って語られはするけれど、ちょうど時間と同じで、その時の自分も恋人も周りの風景も、全てが変化していて、恋を理論つけようとすると、物語を話すようなものになってしまう。
見たことがあるという人は多いのだけれど、それはすでにどこかで見たことがあって、そのプロトタイプを基に語られる。「そういえばそんな形や色でしたね」なんて、もう記憶のすり替えが時間の経過とともに行なわれていて、実際に見たものは、更に実際に見た原型に上書きされてしまう。原型のほうが信憑性があって、それが記憶の正当化にも適応される。
恋もそんなもんで、出会った時にはそれがなんであるかなんて分かりはしないで、それにいきなり「好きです」という恋の常套句を言う人はボクか押尾学くんぐらいしかいないだろうから、その出会いがなんであるかなんてのは、誰も予想できないものである、と思う。
ほとんどの人は出会って「いい感じ」ぐらいの感情から始まるのだろうし、いきなり「これが恋」なんて形にはめて考える人はいないと思う。
何かに遭遇した時、例えば人の形をしたツチノコを見た時に「あれ？」なんて疑問符が頭の中でいっぱいになっているのだろうし、その「あれ？」をそのまま見逃してなかったことにするほど動物の本能は都合よくできていないので、やはりなんらかの意味を与えないと、そして納得しないと、怖くてしかたないだろうし。
そしてその「ツチノコみたいなもの」は「ツチノコ」に置換される。その納得こそが生きるために必要なのだと思っている。違う場合もあるのだけれど、生命の危機に遭遇した場合においては、きっと人は、そういう行動をするのだろうと思うし。ラカンの航海士の話のように…。
出会って、そして時間の経過とともに恋に発展する。いきなり恋になる、というのは、いくら「ビビ」っと来たとしても、恋と理解されるには時間の経過は必要だろうから、とてもまれなケースだろうし。
そしてその出会いが語られる。それは集団行動ではなくて常に単独での山歩きみたいなもんで、その途中で「人の形をしたツチノコを見たよ」というのが「恋」で、他の人にはおおよそ信じられない事象なのだと思う。そしてそれは「恋」ではないにしても、というか、普遍的な「恋」というものが元々存在しないものだから、「恋」にしてしまう、というのは、前述の「ツチノコ」と同じことで、実は巨大な欲望だったとしても、そのほうが綺麗だから、なんて理由で記憶正当化行為が適応されている。
昨日書いた「恋なんて後付けの理由」とはそういったことで、それがなんなのか分からないで後から「あ、そっか、あれが恋なんだ」と感じるようなものだと思う。だけれどその「あれが恋なんだ」と感じたものは、他の人では微妙に違っている。それはもう確実で、他の人では、という自分自身が、そう考える時点において時間的経過をしているので、もう「あの時」の自分ではないのだから。
だから恋なんてのは「する」ものではなくて、「なる」ものなのだろうと考えている。それは記憶の中でのことであって、ま、ものごと全て語られる時は過去の事象として物語化されるのだろうけれど。
言葉や文字としての「恋」は自己記憶正当化行為の物語化されたもの、だと思うから、そうなると、やはりそんな説明可能な「恋」なんてのは捨てて、「なる」ものなら、ま、結果から先に言ってしまうというような行為、例えば、もう「今度会ってくれる」なんてことや「好きです」なんてことよりも、「頼むから産んでくれ」と、初対面の異性に言った方が、面倒臭くなくて良いや、なんて思っているのだけれど。
そりゃ逮捕されるって？
やっぱり、種植えて、芽が出て、育って実になる、というのが恋なのかなあ。
いきなり「実になってください」と言って、そのあとプロセスを作るのも、アリかもしれないけれど、それはやっぱりちょっと違うか。
フォノグラムと書いたけれど、ま、文字とか記号とかじゃなくて、音、オーラルな恋（というとまたHな想像するのだろうけれど）、音として伝わるのが、いい、ということなんだけれど…。楽譜を見て「いい曲だね」というのと、実際聞いて「いい曲だね」というのとの違いということなんだ。なんだ、なんていうのに、また長くなってしまって…。もう寝る。