銭ゲバ(5)墓場

三國家の庭に埋めていた白川の死体は風太郎の父親が移動させていましたね。
墓場、死、人の行き着く場所。3つの墓、ひとつは死体を埋めていた穴。ひとつは癌に冒された風太郎の「友人」が自分で買った墓。そして三國家の墓。今回は墓ということについて。
人は最後には土の中に埋められる。そこで初めて平等になるのだろう。
貧困のために両親が死んでしまった派遣社員、その彼も癌に冒されて死が近づいている。その彼が言う。
「急に憎くなった、金を持っているやつが」「金がないせいでこんな目に遭う」
と。そして「生きていた証拠」としてなにかをやりたかったと、三國造船を脅迫する。
生きていた証拠として「友人」のために人を殺める。そこには僅かながらでも目的がある。死、あるいは、生と言うことに対しての目的。それが希望、そしてそれが人生なのだろう。「なんのために生きているのか」。「なんのために」。
この場面で、無差別殺人事件、秋葉原のような事件を、連想した人も多かったのだろう。
でも違う。決定的な違いは「相手が決まっていた」ということ、目的が決まっていることは幸せなことなんだろう。「殺人ために生きている」ということもありえるのだから。死ぬために人は生きているのだから。あの加藤のように、取りあえず秋葉原、という誰を殺せばいいのか分からない犯行の虚しさ、とは違うもの、を考える。
どんな人生でも「目的」「目標」があれば幸せなことだと、例え人を殺めるということでも。ということをそのころしと自殺によって「そうだろ」と問いかけてくる。
幸福の遂行というのが殺人と自殺という、人との関係で達成される。前回の恋愛も、そして今回の友情も人との関係なのだ、と。どうして人を好きになるのか、という前回の問題を掘り起こす。
「親として言うけれど、金で買えないものがある、愛とか友情とか、な~んちゃって」と風太郎の父親が言う。ところが風太郎は両方とも買えると考えているし、「死」さえも買ってしまっているのだ。
「墓」あるいは「死」について考えることが、「生」を考えることなのだけれど、チョコ-Hというよりも、H-チョコと考えた方が手っ取り早いと、前回の感想で書いたのだけれど、今回は生-人生-死という方法よりも、死-生という方法を取って、ボクたちの前に問題を提起したように思います。
すごく近い位置に死はあって、それは風太郎がお金をばらまいた屋上もその死への場所のメタファーなのですが、人はその狭い場所で「銭」と「時間」によってコントロールされながら生きているとうことを言っているように感じました。

そしてその後にタイムカードを押す場面が繰り返される。何度も何度も…。
「銭」は「時間」によって決められる。人は操り人形のように「時間」にコントロールされる。そして「銭」にコントロールされる。幸福を獲得するために。人生は「時間」と「銭」によって決められる、のでしょう。タイムカードを毎日毎日押し続けて…。

と前回の感想に書いたのですけれど、墓を掘り返す行為、そういったこと、例えば全てを金で買ってしまうこと(愛も友情も)とか、時間さえもコントロールしようとする、銭ゲバ、経済市場主義への提言なのだろうと、あの頃、1970年初めの高度発展時代に、この日が来ることを予想していたのだろうと、思っています。
ゲバ棒を棄てた人たちが、あるいは必然的に持ったのが銭ゲバだったのかもしれないと、考えています。三國社長の「日雇い現場で出会った女性を棄てた」という言葉、多くの人が何かを見失って、例えば「履歴書恋愛」のような、例えば「金を払えば良いんだろ」なんて理論とか、もっとたくさんの、銭という神への帰依と価値観の転換をしたのだろうと考えていますけれど…。
てか、なんだか、怖い話になってきたね。

3件のコメント

  • blank

    >まことさんへ
    ああ、そうですね、そこも印象的でしたね。そんで、2発目の発砲音がなかなか聞こえない、その間の心理状態なんかも…。
    比較でしかないのかもしれませんね。幸せって。量ってもんでもないだろうし、計れるわけでもないのだろうし。
    風太郎のような人ばかりのように思ったりもしています。
    >三河湾さんへ
    そうですね。この作品で卒論を書く人もいるでしょうね。たぶん。
    えっと、それは気づかなかったです。youtubeで上がったら見てみようかな。

  • blank

    こんばんは!
    この手の話を深く追求したら、なんかヤバそうですね。(たまにはプラトニックな恋愛もよろしいかと思っています。)
    チェック1 松山君、膝付いた時ズボンのベルトしてなかったですね!もしかして衣装さん…

  • blank

    友達
    友達だよな
    この繰り返されるフレーズがとても意味深で
    複雑な気持ちになった今回です。
    社長を殺す前に言った彼の言葉
    心の中で多くの人が思ってる言葉だと思います。
    ただ実行しないだけで。。。
    幸せとは。。。
    いろいろ考えさせられるものです。
    日々の苦痛から逃れられる手段が銭でもあるのですが
    綺麗事ばかりじゃないですね。。。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA