ロス疑惑

セブンイレブンに対して弁当類見切り販売に対する排除措置命令が出た問題について考えてみた。
オーナーさんたちは商品廃棄によるロスチャージやチャンスロスという二つのロスに怯えているのだろう。要するに、商品を置かなければ売れない、置き過ぎると廃棄になるということ。もっと言えば、廃棄になるぐらい置かないと売れないと言う売り場の法則みたいなものが小売販売にはあるのだろうと思う。
どこのコンビニ、スーパーを見ても棚を空けているというところを見たことがないし、とりあえず何かを置いて商品が溢れているという空間を作り上げている。とりあえずではなくて、例えばレジ横に和菓子を置いたり、カードを置いたり、弁当の棚にバナナやカップ味噌汁を置いたり、ありとあらゆる「置く」とか「詰める」という売場理論が展開されている。見ていると面白い。
とにかくあの30坪ほどの売場に4000アイテムとかそれ以上のものを詰込むということがコンビニの美学なのだ。空けないというのは、商品だけではなくて時間もそうで、1分たりとも閉店時間がない24時間365日完全フル操業の状態なのだから、まさに大量生産大量消費のシンボルとして全国に数万店舗というこれまた大量生産が行われる。そしてスクラップアンドビルド、生産と廃棄を繰り返して、成長しているのだから、市場経済の申し子と言ってもいい存在なのだ。
「チャンスロス(機会損失)」は、どうも強迫観念として働いているように思う。別に売り切り御免でもいいのではないかと思う。(そうなると隣の店に客を取られるなんてことになるらしいのだけれど)とにかく商品を置いておかないとそのロスが発生するから、店側の不利益になりますよ、という空理というか、仮説というか。実際には代替品を買う場合もあるだろうし、誰もそのチャンスロスの損害額なんてのは確定できない。「たられば」の話なのだから。
2つのロス、廃棄ロスとチャンスロスは二律背反、矛盾しているようであっても、結局は同じところで繋がっている。商品がなければ売れないのだから。簡単な理論なんだけれど、本部やその強迫観念は「いつでも欲しい時に欲しいだけ」なんてこれまたコンビニの美学を説く。それが存在意義だ、みたいなことを言うのだろう。
廃棄ロスは発注という技術や戦略に関わってくるのだけれど、毎日天気予報を分析して、地域の行事、トヨタカレンダーを気にしながら発注したとしても、客がたまたま「今日はラーメン屋にランチを食べに行くか」ということを予測するなんてことは、神にもできないことなのだから、正解はないし100点満点の発注なんてものはない。チャンスロスと廃棄ロスは常につきまとっていて、どこかで妥協しなければならないのだろうと思う。
さらにその廃棄ロスについては客側にも問題があって、新しいもの、常に棚の奥にある新しい商品から買おうとすることから起きる。弁当や牛乳だけではなくて、よく見ていると週刊誌、ジャンプまでも下のほうから買おうとするから、古いものは売れ残る。新しいことはいいことなのだから。女房と畳もだけれど。そういう消費行動になってしまっているのだ。店側の損失やロスなんてことを考えるわけがない。それを防ぐために配送の回数を増やしたり、ポスレジによる発注の精度を上げようとしたりしたとしても、やっぱり人の気持ちは秋の空なのだから、完全に見抜くことは出来ない。シーチキンマヨネーズを買おうとコンビニにやって来たけれど、気が変わって鮭おにぎりにする、なんてことはよくあることなのだから。
廃棄ロスとチャンスロスの狭間で発注者(要するに店舗のオーナー)は苦悩する。そして「見切り販売」という方法でそれをできるだけ少なくしようとする。そしてそれはあらゆる小売店で行われる。自動車販売店でも行われる。売れないなら値段を下げる、というのも、これまた販売理論なのだ。そしてさらに売れなければ値を下げる。経済とはそういうものなのだ。
ロスは怖い。廃棄ロスや万引きロスによって閉店に追い込まれる店舗もあるのだから。
その2つのロスのほかに、日本経済全体の損失というロスもある。大量生産大量消費・大量廃棄のほうがこの国にとってはロスが少ないのだろう。自動車も同じで大量生産大量消費、そして大量廃棄のほうがメーカーにとっては都合が良い。賞味期限切れで廃棄ロスになろうが、万引きによりロスになろうが、交通事故によって廃車ロスになろうが、商品が消えてなくなることは良いことなのだ。そういった生産と消費のシステムこそがこの国を支えてきたロス疑惑なのだから。
そして今なお廃棄を国全体で推奨してきているではないか。エコ替とか、エコポイントとか。ふん。
要するに全体がコンビニの売場理論で動いているということなのだ。何もセブンイレブンだけが悪いのではなくて、この国の全てが悪いのだ。消費者も新しいものを選んでおいて「もったいない」とか言うこと自体矛盾してるだろうし。そしてそのために配送回数が増えて、排気ガスをばら撒く、そしてコンビニ、小売関係労働者の労働条件は悪くなる一方なのだ。(いや、逆にそういったことが雇用を生むのだけれど)
ボクは、そんなことよりも、非正規として雇用保険も労災も社会保険もなにもない状況で働いているコンビニ労働者こそが、この国にとってのチャンスロスだと思うのだ。店側はそのことについて闘ってほしいと思う。本部に対してそういった人々や自らの社会保険の加入をしてもらうことのほうが、優先されてもいいと思うのだ。
その国民ロスについての排除命令はでないのか、と思ったりする。結局は誰が得するかということだけのようなもので、一番その損失をこうむっているのはコンビニ店員のように思う。廃棄がでなくなったら、捨て弁を食べられなくなるのだし…。それがとにかく店員たちにとっては喫緊した問題なのだ。
廃棄ロスが少なくなって誰が得をするか、結局オーナーだけではないかと思ったりもする。本部も弁当メーカーも損をして、店員は弁当を食えなくなる。その見切り弁当を買う人は少し得をしたとしても、いつもあるわけではない。それどころか、商品自体が減少する傾向になると思う。廃棄が出ないということは、そういうことなのだ。在庫管理を考えれば良いだろう。バックオーダーばかり増えて、実際のものは売場からなくなる。
難しい問題である。やっぱりロス疑惑なのだなあ、なんて考えたりしている。それでも大量生産大量消費大量廃棄をしなければ、もうこの国自体が廃棄されるということなのだ。だから、がっちり発注して、売場を満タンにして、廃棄をじゃかすか出さないとダメなのだ。消費者も新しいものを下から奥から引っ張り出して買うべきなのだ。そんな見切り売りなんてことをしないで、本部が15%なんてせこい補填をしないで、原価分を補填して、ジャンジャンバリバリ軍艦マーチを流しながら廃棄しなければ、内需なんて拡大しない。もうそういう立ち居地にこの国はいるのだ。
それが「エコかえ」なんだから、なにか問題でも?
そばうどんチャンポン
そばうどんチャンポンみたいな問題で…。
(15時30分、少し加筆しました)

4件のコメント

  • >さといもさんへ
    ま、それを否定したのが王将チェーンなんですけれど。個店主義というか、個々の店舗の個性を出して、その地域性のニーズにマッチングさせるという手法ですね。
    コンビニの商圏なんてのはたぶん1000軒とか人口5000人とかなんだろうから、同じようなことが出来るという可能性もありますから。今日書いたように。
    えっと、地域性は味によっても違いますよね。例えばドンベエとか、関西風、関東風とかね。だいたい山口あたりにその味覚境界線があるということなのですが…。
    ライン作業の原則というか、同一とか均一というのが品質という考え方はもちろんあると思いますけど。
    >北斗星さんへ
    そうですね。ボクはも少しオーナーさんたちが強気でいられないものか、と思ったのですが。
    なんだかSVにペコペコしている図しか思い浮かばなくて。ま、対決すると不利益になるのでしょうけれど。確かフランチャイズは出店をし続けて利益を上げているということですからね。
    1店舗あたりの売上げが減少しようと、全体は儲かってゆくのだから。煙草で売上げが上がっているらしいのですが、利益となると微妙なのかもしれません。
    大手企業優先ですね。そして画一化する人たち、なんてことをイメージしたもので。そういう意味で王将なんてのが新鮮に感じられたのかもしれないですね。
    >痛風さんへ
    ああ、そういうのを聞いた事があります。
    さんまさんが「オレはしゃべり続けてないと死ぬんだ。サメのようにな」なんて言ってたかなあ。
    そうですね、経済、ま、内需も外需も拡大しなければならない、そこで過剰気味に供給する。それを消費させることを国企業で考える。金利下げたり、エコポイントなんてしたり。
    そんで食わせて肥らせて、メタボになったらジムでダイエット、まだまだ食えるよ、と消費を煽る。
    そんなエンドレスな繰り返しですもんね。廃棄を出さないと生きられない仕組みになっているのですから。
    いえ、運とか縁がないってこともあると思います。救済方法を考えられない人も多いし。そういうことも含めて弁当の廃棄ロスよりも、コンビニ店員のことが先だろ、と思うんですよ。

  • このエントリーを読んでサメとかマグロを連想しましたよ。
    サメやマグロは泳ぎ続けないと窒息してしまうんですよね。
    だから決して静止しない。半分眠ったまま泳ぎ続ける。
    経済活動、事業活動ってこういうことですよね。
    止まれない。振り返れない。突撃あるのみ。
    生態系の上位にいるサメやマグロがお手本なんですね。よくわかります。
    ってか、コンビニの弁当は見切り販売で救われるけど、俺は廃棄処分かよ。
    弁当にも劣るのかと情けなくて・・・

  • 値引販売がイヤなら、その旨きちんと契約書に明記すればよいだけのこと。それでは加盟希望者が減るというなら、直営店中心で経営すればいい。
    結局、FCチェーンなどというのは、契約するまでは甘い話満載、契約してしまえばいくらもがいても本部が儲るというボッタクリシステムにすぎない。
    今回のように加盟店側の意見が通ることは稀で、ほとんどは加盟店側が泣き寝入りするしかない。
    イヤなら、大手ブランドの看板に頼らず自力でやるしかない。でも、この国はいつの間にか大手企業優先国家になってしまいましたからね。
    人より利益。環境より利益。
    官僚亡国。企業亡国。
    政権交代くらいではとてもこの国を変えることは不可能で、もう一度無謀な戦争でもおっ始めて、この国もろとも木っ端みじんに吹き飛ばされなければダメかもしれませんよ。

  • 私はどちらかというとチェーンストアであるコンビニでの値引販売には否定的な考えです。
    それは大手の看板を掲げて営業をしている以上は本社、本部の意向に従うべきであるし
    チェーンストアとはいつでもどこでも同一商品は同一価格というのを売りにし信用を得ている部分があるので
    それを否定して各店が値段や品揃えなどで個性を出してくると
    長い目で見た場合そのチェーンに対する信用が低下すると思われるからです。
    もっとも地域によって品揃えや価格が違う場合はありますがこれに関しては嗜好、気候、経費等が違う以上ある程度は仕方ないと考えます。

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