震度７の地震、それにともなう５メートルの津波が一時間後に到達。海抜３メートルのトヨタ自動車田原工場は全工場水没した。機械に挟まれたり、落ちてきた組立中の自動車が頭に直撃して工場内での死者１００人負傷者５００人、避難途中の負傷者３００人。液状化現象もおこり、工場の再開めどはたたないでいる。田原工業地帯、明海工業団地を含めて、甚大な被害が出た。
というのが、東海・東南海・南海・日向灘の４連増地震が発生し、工場を震度７の揺れが襲い、高さ５メートルの津波が１時間後に到達した場合の被害状況予想だ。
工場から光崎、浦地域（田原寮のある位置）まで海抜３メートル地帯。笠山へむかって徐々に海抜が上昇する。避難場所である笠山公園まで最長で４０分、訓練でその時間なのだから実際に地震が起きたらもっとかかる。
県道２号線は事故車両が炎上し通行できない。他の工場からの避難者、一般市民も同じ避難場所だ。笠山へと続く道路はパニックになる。１時間後、逃げ遅れた人々が津波に飲まれてゆく。田原寮にいた従業員は４階から上に避難し一命をとりとめた。
笠山、笠山公園避難場所はトヨタ自動車従業員５０００人と地域住民数千人で座る場所もない。季節は冬。地震の起きた夜、何十人かが亡くなった。避難できたのだけれど、それだけの大量の飲料水、食料が確保できない。田原工場だけが被災しているわけではない。愛知県内すべての地域で同じことが起きている。
本社地区では津波による被害はなかったものの、地震による建物の崩壊、工場施設の損傷、ライン稼働のめどはたっていない。老朽化している工場建屋は震度７の揺れで簡単に粗大ごみとなった。愛知県内のすべての工場は１年以内の復旧は不可能。液状化した田原工場敷地は放置して本社地区に新工場を建設する予定で、もうすでに数年前から敷地は確保している。がしかし、新工場稼働もまた１年は必要とのことで、それよりは海外への移転、生産比率を上げるほうがコスト的にもリスク回避にも有効だというのが専門家の声…。
なんていうのが翌日以降の新聞記事になる。
船舶輸送ということでは海岸部の工場立地は条件が良くコストは低く抑えられるというこれまでの意識は、地震によるリスクの元には覆される。
この避難訓練を受けて、生産を本社地区に集約するということがかなり早い段階で行われる。田原工場の危険性が白日の下に晒され、その結果として田原工場のラインを縮小して本社地区にその大部分を移転するという理由付けが出来た。
今回の訓練の目的はその一点。田原工場がどれほど危険なのかという実地検分だったのだ。従業員、そして地域住民への意識誘導が行われた。きっぱりと危険宣言が行われたのだ。
だって想定している５メートルの津波で全壊なのだから、移転しなきゃ見殺しだもんね。浜岡原発の危険性よりももっと身近なところに生命を脅かす危険があるということなのだから、もう誰も移転に関して「NO」と言えなくなったということだ。
田原工場はこれで移転の準備が整った。組合も従業員の生命の危険と工場存続を天秤にかけられれば、沈黙するしかないだろう。ただ田原市が官費で２０メートルなんて防波堤を作り、従業員、住民全てが３０分以内に避難できる場所と食糧備蓄施設を作るという条件を提示すれば、別の話だけれど…。

トヨタ自動車田原工場　津波避難訓練（東日新聞）
今回の訓練、従業員には秘密にしていてもマスコミには漏らしていたというのは、まあ、その移転声明の広報をしてもらうためとその証人になってもらうため、なんだろうなあ。どこも一面だしさ。もうすっかりみんな「田原は危険」と刷り込まれちゃったんだろうしさ。きっと。