その日暗し

あれから11か月が過ぎたんだね。
こうして眠れない夜の発狂しそうになりそうなる闇の中で、時間にしがみついている写真を探し出している。
あの杉並木、ポツリポツリと点在する記憶、ボクたちの間に吹いていた風の音や転びそうになった濡れた石段のこと、不幸にも踏みにじられた黄金色の落葉のことやその向うの無限に高い空こと、そしてその中にやっぱりポツリポツリといる君のことをボクは探し出している。
11か月なんてとても中途半端な時間、きっと嘘っぱちな唄なんかだと1年とか2年なんてことにしてしまうんだろうけれど、それほど人は都合よく時間を整理できはしない、そうボクは思うんだ。
あの時飲んだコーヒーをどこで買ったのか想い出せないでいる。「砂糖は一本じゃ足りないね」って言ったことは憶えてる。ボクたちはずいぶんといろいろな話をして、それは遠足のおやつみたいなもので、前の日に何度も何度も確認されたもので、そして予算ではなくて時間という制約を受けて準備されていたものだったんだ。
いや、あの杉並木は遠足そのものだった。
ボクたちは逢えない時間のほうが多くて、あれからの11か月という時間も実はボクたちにとっては1か月に圧縮された濃度なのだ。それは不幸なことではなくて、探し出せるほどの距離にあって、いつまでも想い出をその堅実な鎖につなぎとめておいてくれる。昨日の夕食に何を食べたのか忘れることはあっても、あの日のことは忘れない、そういうことなのだ。
幸せってのは、きっと、量とか回数とかそんなものとは違う、例えば子供の頃食べたバタークリームのクリスマスケーキとか正月の雑煮、誕生日のカレーライスみたいなもの、かなり限定された唯一性なもの、のように思う。いつでもどこでもほしいだけ、なんてものとはかけ離れたところにあると思う。
そう思う。そう思わなければ、きっとほんとうに眠れなくなりそうだから。
その日暮らし、ポツリポツリと生きている。秋は哀し。
その日暗し
其の日暗し | 道中の点検
そう言えば前にも同じようなタイトルがあったね。

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