Feel so good

夕方19時過ぎのスーパーマーケットはその日最後の混雑をむかえる。客層は16時あたりのそれとは違って、まだ塗の施されていない木地のように刹那的な光りを帯びて並んでいた。船ならばすでに傾いて沈没していると思えるほど、人々は同じ一面に片寄って並びうごめいていた。その目は、その動きは、すでに想像力とか創作力なんてものは失くしてしまっていて、ただただ本能のままにその場所を与えられていた。
ボクも与えられていたひとりだった。選択するという消費者としての権利さえもその時間のボクたちは奪われていて、それどころか売切れてしまって結局何も買わずに安アパートにストックされた即席ラーメンを食べるという日も少なくはない。
夕方19時過ぎの総菜売り場の風景である。
その日は、弁当類はほぼ完売していて、たったひとつだけマンナ米を使用したヘルシー弁当が残っていた。ボクは少しだけ考えた。長く考えるとその唯一のものまで失ってしまう。そうしてそれを手にした。わずか420カロリーほどの夕食だ。それでもきっと栄養バランスは考えられているのだろうと思った。選択することはできない状況だった。即席めんかそれかというだけのことだった。
ボクはそれをもってレジへ向かった。いつものように。「箸を一膳お願いします」とレジのお姉さんに言った。まだ20代のはじめ、そしてまだ処女だろうお姉さんは「かしこまりましたぁ」なんて少し語尾を上げた返事をした。その「ぁ」が妙に清潔だった。爪の切り方が純潔だった。
お姉さんは箸にテープを付けると弁当に固定してくれた。ボクは「あっ」と思わずうなった。その後に「いいんですよ、そんなに丁寧にしなくても」なんて言いたかったのだけれど、ボクの「あっ」という声に少し緊張したお姉さんに対してそれ以上のことを言うのはなんだかとっても悪いことのように思えてやめた。そのかわりに「ありがとう」と言ってお釣りをレシートを受け取った。
きっとボクは今日もフィールに行くと思う。でもそのお姉さんのレジには行けないと思う。なんだか恥ずかしいのだ。それでもなにかドキドキする。いやどうなるってことでもないんだけれど、なにかその「ぁ」が、そして200円の見切り品の弁当に箸をテープ付けしてくれたことなんかが、ボクの想像力とか創作力なんてことを蘇らせてくれるように思った。
You make me feel so good!
Feel so good
でもこれだけではお腹が空いたとさ。You made me not fill!(違うか?)

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