藍と美香

宮里美香は泣かない女だと思っていた。時代が彼女のイメージをそうさせたのかもしれない。
14番のラフは彼女の足に絡みついていた。それはまるで彼女とゴルフの関係のようでもあった。もがけばさらに足だけではなくて彼女の身体全体へその怨念の指先を伸ばして蹂躙するようでもあった。それでもサングラス越しの眼差しは彼女のイメージ通りの「気丈さ」を保っていた。安っぽい表現を使うのならば「凛」としていた。そしてその表現通りの彼女をボクたちは期待していた。
宮里藍の存在が、彼女のイメージを違うものにしてしまった。「泣かない女」とボクが思っていたこともそのひとつだ。時代はいつもスターを両立させてはくれない。ちょうどONのように、若貴のように、あるいはミーとケイのように、陽と陰に仕立ててしまう。藍が「向日葵」で美香が「月見草」というボクたちのイメージ通りに彼女たちの虚像は作られてしまった。
足に絡みついたラフを彼女は迷うことなくクラブヘッドでなぎ倒してボールをグリーン方向へ運んだ。きっと藍ならばサッと払うように同じことをやるだろうと、ボクたちは期待しそのバイアスのかかったイメージで彼女たちの行動を目撃する。物語のディスクール、彼女たちはボクたち観客の前では彼女たちではなくなるのだ。
しかし、美香は泣いた。あの難しい18番グリーンのパットを決めた瞬間に彼女は泣いた。彼女の実像だった。23歳の乙女は、きっと、絡みつくラフに負けまいと歯を食いしばって生きてきたし、そうすることが彼女の精神のバランスを取る唯一の方法だったのだろう。本当はいつも泣きたかった。
きっとあのパットが外れて佐伯三貴とのプレーオフになって敗北したのならば、彼女の虚像はさらに補強されて「泣かない」「笑わない女」なんてことにされたかもしれない。そしてボクたちもそのイメージに沿って彼女を、彼女の行動を解釈したに違いない。
なんて考えて、美香ちゃんが勝ってほんとうに良かったと思った。おじさんもテレビの前でウルウルしてしまった。解説の森口祐子さんの目にいっぱい涙をためていた姿も感動的で、ウルウルが止まらなくなってしまったんだ。
同じ時代に沖縄出身の宮里というふたりがいるということが、そしておなじステージで争っているってことが、不幸なことのように思っていたんだけれど、本人たちは、そして多くの人たちはそんな安っぽいドラマ仕立てでスポーツ観戦してはいないのだろうね。それに藍と美香なんてことにすればそんなこともどうでもいいことなのかなあ、なんて思っているし、海外ではAiとMikaなんだろうし、なんて考えたら「あ、オレってやっぱり嫌なヤツだなあ」なんて…また違う意味で泣けてきた。はあ~っ…寝よ。
麦とホップ
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