秋刀魚の味

秋刀魚の味…というよりも、ヨクがなくなってしまっている。

食欲なんていうあのヨクだ。

食欲なんてのはなくても、それはそれで経済的にけっこうなことだし、健康にも良いことなんだろうと思う。人との出会いなんてこと、なんていうヨクなのかは分からないけれど、そんなものもほとんどなくて、それもそれで精神的にけっこうなことだと思っている。

ただまあ、困るのは多少残っているアイヨクみたいなもので、これさえなくなれば無敵になれるのに、なんて思っている。アイヨクというか、セイヨクなんてのが正体なのかもしれないけれど、それがたまに鎌首をもたげる時がある。(危うく「雁首をもたげる」と書きそうになった:)

秋刀魚の味

秋刀魚が食べたくなった。ああ、久しぶりのヨク、なんてちょいと感動したりした。しかし、この狭い部屋で秋刀魚を焼く勇気はない。たぶん、そのヨクのために2、3日は残った匂いに悩まされなければならない。洋服に付着したそのヨクの匂いに苦しまなければならない。

公園に七輪を持って行って焼くか、なんて考えてみるのだけれど、きっと「豊橋ほっとメール」に不審者として流れるに違いない。豊川の川原に行って、なんてことも考えてはみるのだけれど、そこまでヨクジョウしてはいない。

居酒屋にいけば脂の乗った秋刀魚がいて、あまりの生きのよさに「いらっしゃい」なんて言うのかもしれないけれど、それはそれで出不精で人見知りが激しくて、そしてヨクのない今のボクにはかなりハードルが高い行為だ。それなら我慢する、ということになる。

要するにヨクジョウしていたとしても、それほどのものでもないのだ。

そしてそのかわりに、冷凍の豚汁の素なんてもので味噌汁を作って食べた。秋刀魚が豚汁に替わったのだ。ああ、それでも食べないという選択はとうとう出来なくて、結局ショクヨクに負けてしまった。ボクたちのヨクというのは常にそれを満たす別の行為が用意されている。そんなへんな意味じゃなくてね。

秋刀魚の味、もう忘れてしまったなあ。最後に食べたのは、いつだったっけなあ。

若冲で一杯
鯉で一杯

秋刀魚の味(1962) : 作品情報 – 映画.com

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