ほんとうに不本意非正規率は低下したのか?

確かに「多様な働き方」というのは、民主党の岡田代表がいうように美辞麗句であって、問題の本質を希釈するように思う。産業業種別によっても不本意不正規率は大きく違っているのだろうから、そのあたりをきちんと説明すべきだと思うのだ。

「安倍政権の経済政策の最大の問題は、成長の果実をいかに分配するかという視点が全く欠落していること。結婚・出産を諦めなければいけない多くの若者がいるという現実を無視し、『多様な働き方』という美辞麗句にすり替えることは許されない」(民主党 岡田克也代表)
「非正規雇用者の中で、正規の職に就きたくても不本意ながら非正規の職に就いている人の割合は、このところ低下しています。この点は特に強調しておきたい」(安倍首相)(*1)

平成26年の労働経済白書(*2)によれば「非正規雇用の働き方を選んだ理由」として22.5%の人が「正社員として働ける会社がなかった」をあげている。10年前の2004年から14%も増加している。多くの企業がコスト削減のために常用代替として非正規雇用を増やしたこと、それも長期にわたって雇用し続けているということに起因している。

例えばトヨタ自動車は、期間従業員という常用従業員を雇用の調整弁として、これまた常に募集している。トヨタだけではなくて大中小ほぼ日本中の企業が社会的責任ということをすっかり忘れて、国民を使い捨ての道具、調整弁として雇用してきたことが、この1割弱の増加の原因なのだ。

同じく「より収入の多い仕事に従事したかったから」という理由で非正規雇用の働き方を選んだ人も8.3%いて、その中には製造業の賃金の良さに釣られて非正規を選ばざるをえなかったという人の割合が多いと考える。ボクもそうだったように、30代40代で離職すると、とりあえず「それまでの収入を確保する/したい/しなければならない」という状況になる。住宅ローンや教育費、車のローンなどとの収支を考えて、一時的な賃金の良さ、例えば一時金や満了金が選択の理由になる。将来なんてことよりは、目の前の金が必要になり、賃金の高い職場でとりあえず働くということになる。

企業は、射幸心とまでは言わないが、そのあたりの精神状態につけこんで、「生かさず殺さず」の雇用条件で募集をしてくる。それでも2004年までは有期雇用の期間が1年だったので、たとえばトヨタのように上限11か月で期間満了になり退職、そこから再度人生を考え直す機会もあったのだけれど、改正(改悪)されて3年なんて長期間雇用雇用(拘束)されるようになってからは、非正規から抜け出せない人が多くなった。

さらに企業は集めた非正規社員たちに、1割も満たない正規転換を「(がんばり次第では)正社員への登用あり」とささやき続け、その甘言によって自ら拘束され続ける若者が増加した。

それが格差が拡大した原因なのだ。国家、企業の欺瞞がまねいた国民の幸福の切り捨て、そしてマスコミまでがそれら企業の提灯記事を書き、CMを流し続けた。まるで戦時中のように、国民を欺いてきたのだ。若者たちは正規雇用になる夢を奪われ気づけば婚期を逃し格差の底から抜け出せない状況になってしまった。

このように、国民をコスト至上主義のもと使い捨て、企業は内部留保をため続たし、今もそれを増やし続けている。「死んだ日本でビジネスはできない」(*3)社会に投資をしなくなった企業、社会的責任を説く企業家もいない。政治家もだ。

「不本意ながら非正規の職に就いている人の割合」と首相は言う。正規になるのを諦らめなければならない社会をつくり、そしてもうそういった気力を削いでおきながら、割合が減ったと喜んでいるようにボクには見える。「成長の果実をいかに分配するかという視点が全く欠落」しているようにボクも思うのだ。

「多様な働き方」なんてことを言っている場合ではなくて、例えばトヨタ自動車の期間従業員の正規登用率とか、どれだけの期間従業員が意味もなく登用を妨げられて常用代替従業員として働いているか、なんてことを明らかにして、企業の(正規に)するする詐欺をなくし、常用代替雇用という悪質な雇用体系をなくさない限り、この国の若者の精気は取り戻せないと思う。

(*1)民主党の岡田克也代表の代表質問での答弁
(*2)第3節 労働者のキャリアアップに向けた課題
平成26年版 労働経済の分析 -人材力の最大発揮に向けて-|厚生労働省
(*3)デービッド・ブラワー氏の「死んだ地球でビジネスはできない」から

ゆうちょ 能年玲奈さん
「人生は、夢だらけ」と能年玲奈さんはいうけれど…。

4件のコメント

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    元2塗装さん、こんにちは。
    非正規希望…まあ、責任がないとか、時間が自由になるとかそういった理由の人もいたり、資格を取るとか起業のためなんて人もいるのも確かですよね。
    月20万だと「まあ、このままでもいいか」と思うに違いないと。
    「将来を深く考えていない」、確かにその20万円が将来的には何倍もの違いになるのだけれど…。それに結婚し子供が産まれてなんてことになると、やっぱり正規で収入も安定していないと。
    まあ、受験でも就職でも一度失敗してしまうと次が難しい社会の仕組みに敏感に反応して、なげやりになっている若者も多いように思いますけれど。よほど才能がないかぎり、はい上がれないんだろうし…。

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    先月新人と飲みに行ったんですが、本当は非正規希望だったと聞いて
    びっくりしました。
    前職フリーターで、月20万以上稼いでたからが理由らしい。
    結局正社員になったのは、交際相手の親に正社員じゃないとと
    指摘されたからだそうです。
    最近は人手不足も手伝って、都市部でバイトの時給が上がってたりします。
    そういった賃金改善もあって、不本意非正規率の低下は有り得ると思います。
    恐らくは、この新人のように将来を深く考えていないだけだと思うのですが。

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    のなさん、こんばんは。
    なにかのアンケートでは、新卒の女性の70%強が管理職にはなりたくないそうです。男も30%程度がそう思っているらしくて、まあ、一生懸命働くよりは、のんびりと生きていたいというのが本音なのかもしれませんね。ボクもそうですが…。
    人生、夢もない、という状況でもあるのですが、まあ、食べて眠れる場所さえあればと、思っているんです。

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     ほんとーーーにそうですよね。スーパーで、同級生と話してたんですが、(その子は既婚子供あり)私達の年代が一番お金ないよね、と。旦那さんは、自営業者で、旦那さんの扶養から外れて、派遣社員で働いてるそうです。男性を目の敵にするのは、狭い視野かもしれませんが、「男の人の方が怖いよね。」という意見で一致しました。(仕事の面で…。) 「するする詐欺」とは、なかなかのネーミングですね。私達、就職氷河期世代(特に女性)は、何にも期待してません。又言いますが、「女性の活躍」なんて聞きたくないです!

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