冬色

「さみしいね」
なんて君が言うから
「哀しくもあるね」
なんて言った。
冬色の街には青いLEDのヒカリが鈍く輝いていて、乾いた空気の中にその残光のため息がスーッと白く漂っていた広小路通り、地上2メートルほどの高さまでの温もりは、そこを行き交う人々の欲望の吐息の塊で、その塊と過去という情緒との擦過熱が、さらにそこいらの温度を上げていたのだけれど、そのヒカリは、そうしてボクたちの手は、相変わらず冷たいままだった。
「哀しいね」
なんて君がいうから
「切なくもあるね」
なんて言った。
冬色の空には飛行機のシグナル灯が点滅していて、無機質なビルとゼンマイ仕掛けの星座の間を通り過ぎていた広小路通り、その高さはボクたちとはほぼ無関係の位置に存在していて、古い記憶の断片を重ね合わせた空間が、迷路のように組み合わさって、さらに記憶とか過去なんてものを他人事にしていたのだけれど、ボクたちは、迷子にならないように手を繋いでいた。
「切ないね」
なんて君がいうから
「死のうか」
なんて言った。
「うん」
なんて君が言うから
ボクは、なにも言えなかった。
ボクたちは相変わらず「コイビト」のままだった。それはほとんどの人が想像するような「恋人」ではなくて、やっぱり「コイビト」だった。少し色あせて、少し冷たい、そうしてなにかデジタルな感じの「コイビト」がボクたちだった。ちょうどこんな感じの夜にボクたちは出逢った。そうしてボクはこの街に住むようになった。たぶん、ほとんどの人には信じられないようなことがボクたちの間に起きたし、それがボクたちの「さみしさ」だったり「哀しさ」だったり「切なさ」だったりする原因だった。
奇跡なんてものは、ある。運命なんてものも、ある。そう思った。ボクたちがそうだったように。
もう何年も過ぎてしまってはいても、あの日のことは分かっているし、ちょうどあの日のような街がそこにある。この街の冬の色だけは、ずっと同じで、退色することなく、絵具を重ねるようにし「あの日」がボクのまえに現れる。
ボクが黙っているもんだから、君も黙ってしまった。
ボクたちはずいぶんと長い間、何も言わないでいた。
「やっぱりさみしいね」
なんて君がいうから
「哀しくもあるね」
なんて言った。
そうしたらなんとなく笑えてきた。
あの日のこと。また冬色の街だね。
神明公園

2件のコメント

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    テルさん、どうも。
    金曜日から次の月曜日までちょっと長いってのも楽しみですね。そろそろ忘年会の季節でもあるのかな。
    冬は、たしかに、色がないだけに、色をつけやすいってこともあるのかもしれないですね。

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    田原笠山さん、こんばんは。2直の週も終わり来週は久し振りに1直が5日間なので少し楽が出来ます。
    冬の景色って何故か思い出を美化する物がありますよね。それくらい冬はやはり神秘的なのかなあと思います。

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