繁多寺、石手寺(33日目の1)

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日尾公園の夜は静かだった。寒さも前日の久万の雪の夜に比べればなんともなかったし、使い捨てカイロが効いていた。それでも何度か目がさめて、そして眠って、それを繰り返す夜には違いなかった。

テント内の結露がひどかった。正確にはテントではなくてシェルターなのだ。その15デニールという極薄の生地に防水コーティングをしていて、気密性は良いのだけれど透湿性を犠牲にしているために、天井と入り口にベンチレーターが装備されそこから外気が入ってくるとしても結露はする。800グラムという軽さと引き換えた不自由さなのだけれど。

6時10分に起きて、テント内の結露を拭くことからその朝は始まった。完全には乾かない。それに地面に設営したので中だけではなくて、グラウンドシートのほうも濡れていた。強引にスタッフバックに詰め込んだ。パッキングを済ませてから洗顔した。それから出発。7時10分だった。少し遅い出発になった。

そのまま近くのファミリーマート南久米店でサンドイッチとほっとゆずを買い、駐車場で食べた。松山市内ということもあって、非常食や予備の食べ物は持たなかった。朝の通勤通学ラッシュの道を歩く。

繁多寺の弘法大師像は彫が深く特に凛々しい
(50番札所繁多寺の弘法大師像)

7時40分、五十番札所繁多寺到着。納経が終わり境内のベンチに座り少し休憩。8時20分出発。9時00分五十一番札所石手寺着。とても大きなお寺で迷子になる。迷子というか、大師堂と本堂が分からなくて、結局4か所で納経する。日曜日でもないのにすごい人出だった。石手寺ではなくて人出寺だなあ、なんて思った。

その人の多さと広さに驚きながらも納経所で墨書、朱印をいただいた。「仏教、涅槃への道」という冊子もいただいた。その日は(いつもかもしれないけれど)餅のお接待をしていて、あん餅をひとついただく。

小学生の女の子から声をかけられた。
「あのお遍路さん」
「なに?」と言った。
「写真を写していいですか」と訊いてきた。その後ろで母親も頭を下げていた。ボクは「ああ、良いよ」と少しポーズを取ってその少女のファインダーを見た。混雑していた境内なのだけれど、遍路の姿は2、3人だけだった。それを考えると、異様な姿なのかもしれないと思った。それに松山市内は都会なのだ。

9時40分出発。石手寺の「お山四国八十八箇所」を抜けて松山市内道後温泉に出るルートを取った。階段を登るとその「お山四国」はあった。ボクはそのまま素通りしていた。すると「どこに行くんだ」と声がした。老人がこちらに向かって急ぎ足でやって来た。

51番札所石手寺にて もくもくと煙があがる香炉
(51番札所石手寺にて もくもくと……景気がいい)

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