篠山詣り(27日目の1)

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4時に同宿人を殺めてしまったボクは、そのまま起きていて自販機の灯りで日記を書いたり、前日に買った包帯を菅笠の台座に巻いていた。歯痛で飲んだ鎮痛剤が効いているのか膝の痛みは少なかった。徐々に明けてゆく空を睨みながら出発するタイミングをはかっていた。6時30分出発。いよいよ長く苦しく哀しかった高知も終わりに近づいていた。

宿毛から四十番札所観自在寺へのルートもいくつかあって、ボクが歩いた56号線篠川を遡って愛南町へ抜けるのは普通は篠山神社に詣でる遍路道とされている。篠山詣りをしない松尾峠超えが一般的な歩き遍路のコースとされていて、昨日の青年も松尾峠の子安地蔵の通夜堂に宿泊してから一本松に抜けているはずだった。(彼は松尾大師堂と言ったのだけれど)

一本木トンネル入り口にある「愛媛県」「愛南町」の道路標識
(そして修行の道場を抜け、菩薩の道場愛媛県に入った)

札掛という地名があって、そこは「篠山詣りを果たせなかった遍路が、この地に札を掛け篠山を遥拝して去った名残の地名」と言われている。

(へんろみち保存協会編「四国遍路、地図編」より引用)

その篠山神社へは国道56号線、正木トンネルの手前から右折するのだけれど、トンネルの手前がちょうど愛媛と高知の県境になっていて、ボクは篠山というよりも愛媛に早く入りたいと交差点を通り過ぎた。8時少し前だった。そしてボクは愛媛に入った。修行の道場を抜けて、いよいよ菩提の道場へ来たのだ。少し身体が楽になったようにも感じた。膝も鎮痛剤とバンテリンが効いているのか調子は良かった。歯は痛んでいたけれど。

8時40分フレッシュ一本松着。のり巻き、あんぱん、卵焼きを買ってバス停のベンチで食べた。一本松温泉がそばにある。10時からの営業、あと1時間…考えた。風呂に入りたかった。ムカデのこともあった。9時出発。

10時、56号線の道端で休憩。10時10分出発。ぐっと気温が上がっていた。車でドライブというのには気持ちよさそうな道路だった。ゆったりとしたカーブと上り坂、晩秋の乾いた空気と広がる青空、その青と紅葉の始まった山、牧歌的と表現するのだろう風景は歩くには退屈なものにしかすぎなかった。

11時少し過ぎに愛南町に入る。宇和島バス城辺駅手前で男性にみかんをいただく。それを食べながら愛南町内を抜ける。僧都川にかかる橋を渡らず川の防波堤道路を歩く。川原の公園は整備されていて、野宿には良さそうな場所だった。そのことを最初に考えた。観自在寺はもうそこだった。

40番札所観自在寺の大師像が扉の向こうに見える 今にも語りかけてきそうだ
(40番札所観自在寺の大師像は結局なにも語りかけてくれなかった……)

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