ドライブイン水車の湿っぽい夜だった(22日目の3)

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雨は止んでいたのだけれど、換気の悪い温泉にいるのではないかと思うほど、空気はたっぷりと水分を吸って、底に澱んでいた。

ボクはドライブイン水車の駐車場にいた。「ドライブイン」と呼ばれる広い駐車場とトイレをそなえたものだった。テントをどこに張るか、あるいは張らないか、考えていると、一人の青年がやって来た。

その青年が持っていたザックと手作りのザックカバー
(UL仕様の遍路一式 この装備で歩いて野宿はすごい)

「こんにちは」
「こんにちは」とボクは答えた。そして「雨だね、今日はどこから」とその青年に尋ねた。
「分かりません」
「えっと、じゃあ何日目?」
「それも分かりません」

どこから来たのかということは、ボクも分からない時があった。街を離れると地名を知る術がない場所もあったからだ。それでも、その青年の受け答えは、どこか、なにか違っていて、記憶喪失者とはこういう感じなのかもしれない、とボクは考えていた。

「どうして?」と、何度かためらった言葉を口に出した。
「一度、お金が無くなって、帰ってアルバイトをして、また来たもので…」と、指を折って数え始めたけれど、途中で止めてしまった。
「ああ、なるほど。それじゃあ、何日目かは答えにくいよね」
「はい、それに地図も持ってないもので、どこなのか分からないんです」
「そうか。目印があるから、それを頼りに?」
「そうですね。だから時間もかかって」
「そうだろうね。迷ったりもするだろうし。地図持っていても迷う時あるしね」
「はい、それでも寄り道するのも楽しいです」
「ああ、なるほど、時間はたっぷりあるし?」
「はい、お金はないですけれど。お父さん、旅慣れてる感じしますね」

と、お父さんとボクのことを言った。少し驚いた。考えれば、20歳そこそこの青年にしてみれば、くたびれたオジサンはみんなお父さんなのかもしれないと、思った。そして「そうか?」と、少しお父さんぽく答えた。

「ええ、色々と行かれたんですか?」
「若いときはね」それ以上は話さなかった。

「今日はここですか?」と訊いてきた。
「そうだよ、ここにテントを張ろうかと思って」
「ボクは、向こうのバス停に泊まろうと思っています。テントないんで」
「ああ、バス停のほうが暖かいだろうね。トイレの横にも休憩所があるけれど、あすこは眠れないだろうし」と言った。

「そのデイパックのカバー、手作りなんだ」と言った。
「ええ、ビニール合羽を改造して作りました」
「すごいね」
「いや、全部安もので。肩のところも痛いんで100均でショルダーバッグ用のパットを買って当てているんですよ」と、その改造部分を見せてくれた。

「ああ、若い時は物に頼らない方が良いよ。体力もあるし、それに寄り添って感覚も鋭いだろうから。過信はよくないけれど、そのほうが好感が持てるよ、君みたいにね」と、話した。少し羨ましくもあった。彼の装備でボクが歩いて巡れる自信もなかった。

「じゃあ、失礼します」と彼は国道の方へ歩いて行った。たぶん、彼なりの旅をしている、というか旅自体を模索しているのだろうと思った。

犬の鳴き声がうるさかった。底に澱んでいる空気の上に夜が滲んでいた。

レストラン水車の東屋にテントを張りました
(土佐清水市市野瀬 ドライブイン水車横の東屋にて)

この日の行程:浮津海水浴場~ドライブイン水車:名称変更か閉鎖されています(土佐清水市市野瀬)

この日の札所:なし

この日の宿泊:テント泊

この日の出費:2,674円(納経代、お賽銭別)

・道の駅ビオスおおがた 「ひなたや」
日替わり弁当 400円
おむすびセット 250円
お寿司 300円
蒸しパン 200円
(小計 1,150円)
#随分買ってしまって、お寿司は夕ご飯に食べた。

・スリーエフ中村竹島店
ピーナッツチョコ 105円
カロリーメイト 210円
バターピーナッツ 105円
スニッカーズ 121円
ブラックサンダー 32円
ポリッピー 105円
自着包帯 336円
(小計 1,014円)
#ここで包帯を買って、膝を固定した。

・自動販売機
缶コーヒー×3 360円
スポーツドリンク 150円

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