そして岩本寺(18日目の2)

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動きたくない気持ちをなんとかなだめて、歩き始めた。
9時40分、六十余社へんろ小屋発。影野駅近くの弁当屋に美味しそうな稲荷寿司が並んでいた。ところが人がいない。「すみません」と何度か呼んだけれど応答がない。しばらく店の前に座って待っていた。10時だった。

と、Kさんがやって来た。ずいぶんと久しぶりのような気がした。何日ぶりだろうか。ボクは手を振った。店の前にやって来た。「お久しぶりですね」と言った。
「そうだね。何してる?」
「いなり寿司を買おうと思っているんですが、誰もいなくて」
「そうなのか。すみませ~ん、誰もいませんか」とKさんが大きな声で呼び始めた。そして「この2階にいるんじゃないのか」と、階段の下に行って呼んだ。「もしも~し」。

すると2階のドアが開いて、おばさんが「ああ、すみません」と階段を降りてきた。ボクもKさんも稲荷寿司を頼んだ。ここのおばさんはボクたちのことを「お四国さん」と呼んだ。そして代金を受け取ろうとしなかった。なんだか申し訳なく感じたのだけれど、ボクもKさんも、「じゃあ、頂きます」と、同時に言った。

影野駅近くの弁当屋で食べた稲荷寿司
(そのいなり寿司)

「なんだか悪いことしたね」とKさんが言った。
「そうですね、随分待ったようなことを言いましたし」
「そうだね」
なんてことを話ながら並んで歩いていた。ボクは膝が痛かったので、Kさんと同じ速度で歩くのが辛くなった。少ししてスリーエフがあったので「Kさん、ここで買い出ししますから、先に行っていて下さい」と言った。

「あ、私も買い物する」とKさんと一緒にスリーエフに入った。Kさんは飲み物と何かを買って、すぐにレジに向かった。支払うと、ボクの側に来て「じゃあ、先に行ってるね」と言った。「はい、また」とボクは答えた。

10時30分。買い物が終わると、店の横にあったベンチに座った。そこで今買ったチリメンコンブご飯とおでん厚揚げの昼食をとった。遍路小屋を出発して1時間も経っていなかった。動きたくなかった。膝が痛かった。

ご飯を食べ終わると、「行かなきゃ」と声に出して立ち上がった。

11時20分、ゆういんぐしまんと(観光物産センター)着。また休憩。ここでは無料のシャワーを使わせていただく。膝を温める。頭を洗い、身体を洗う。久しぶりのシャワーだった。10月29日に奈半利のホテルに泊まって以来、一週間ぶりだった。頭髪は水で洗っていたとしても、そして身体を拭いていたとしても、なんだか気にはなっていた。白衣も洗いたかった。
(*ゆういんぐしまんとは当時仁井田駅近く、地図上のヰセキのあたりにありました)

12時出発。少しだけだけれど、痛みが和らいだように感じた。気持ちも少し落ち着いてきたようだった。それでも不安だった。この先、足摺までの長い道が待っていた。

岩本寺の銅鑼
(37番札所岩本寺にて)

12時30分、道の駅あぐり窪川で、トイレ休憩。
13時00分、三十七番札所岩本寺着。ちょうどKさんが出発するところだった。「道、わかりにくかったよね」と聞いてきたので「そうですね、なんだかグルグル回っているようで」と答えた。「今日はどこまで」

「まだ決めてないのですが、佐賀あたりまで行けたらと思っているんです」
「そうか、私は佐賀温泉に予約したから」
「じゃあ、また逢うかもしれませんね」
「そうだね、じゃ、先に行ってるね」
「はい、また」

ボクは本堂に向かった。なぜだか哀しくなった。膝の痛みが増していた。

秋空を背に金剛杖

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