タクシー運転手の改善基準告示改正について(3)

今回の改正では「予期し得ない事象への対応時間の取扱い」という項目が追加されました。

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  2. タクシー運転手の改善基準告示改正について(2)
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予期し得ない事象への対応時間の取扱い

予期し得ない事象への対応時間の取扱い
タクシー・ハイヤー運転者の労働時間等の改善基準のポイント(令和6年4月〜適用)厚生労働省

予期し得ない事象とは

改善告示には次の(1) ~(4)の事象をあげています。さらに、1と2の両方の要件を満たす時間が拘束時間から引かれます。

1.次のいずれかの事象により生じた運行の遅延に対応するための時間であること。

(1)車両の故障
(2)フェリーの欠航
(3)災害事故による道路封鎖、道路渋滞
(4)異常気象

2.客観的な記録により確認できる時間であること

(1)運転日報上の記録

      • 対応を行った場所
      • 具体的事由
      • 対応開始と終了した時刻や所要時間数

(2)予期し得ない事象の発生を特定できる客観的な資料

      • 修理証明書
      • フェリー欠航情報の写し
      • 道路交通情報の写し(渋滞の日時・原因を特定できるもの)
      • 異常気象などに関する気象情報等の写し

予期し得ない事象への対応時間

例えば、豊橋駅から横浜まで行った回送中、高速道路のSAでエンジンがかからなくなりました。会社の指示でJAFを呼ぶことになりました。そしてSA近くの修理工場で修理した後、帰庫した、と仮定します。

この場合

  • 運転日報
  • JAF、修理工場の明細、修理記録

この2点で証明できるのではないのでしょうか。そして、SA上で停止した時間から修理完了までの時間が「予期し得ない事象への対応時間」になります。

この運転手のその日の拘束時間は6:00からで、修理が終わって会社に戻り、入庫、納金、点呼が終わったのが24:00になったとします。

これは、現行の改善基準での拘束時間では、24:00-6:00=18:00、18時間になります。

しかし、上記のエンジントラブルのための対応時間(予期し得ない事象への対応時間)が3時間発生しているので、改正改善基準告示では、18:oo-3:00=15:00、拘束時間は15時間になります。拘束時間超過、入庫時間オーバーにはならないということです。

このケースでは、拘束時間が24時に終了しているので、ここからが休息時間の起点となります。日勤勤務の最大拘束時間15時間を超えていないので、翌日は9:00に出勤が可能になります。

賃金はどうなる

改善基準告示適用の拘束時間は15時間ですが、実質拘束されている時間は18時間です。この18時間から休憩時間を引いたものが、労働時間になります。

予期し得ない事象で発生した時間は、拘束時間からは除外されますが、労働時間には含めます。

予期し得ない事象が追加された理由

失われた時間を求めて

この改正で、日勤勤務者は11時間、車庫待ち等では22時間が短縮されます。その時間短縮は、運転手も事業者にとっても損失になります1

追加理由のひとつは、その損失分の補填と考えられます。

1日の最大拘束時間超過をなくす

ふたつめの理由は、1日の最大拘束時間オーバーを防ぐことでしょう。

どういうことかというと、これまでも車両故障や渋滞のほかに、例えば、乗り逃げ、事件事故、その証人、拾得物や吐しゃ物掃除…。予期し得ないことが起き、その時間は拘束時間に含まれていました。そしてその予期し得ない時間によって、1日の最大拘束時間をオーバーしてしまうことが起きていました。

改善基準告示の求める1か月の拘束時間よりも、1日の最大拘束時間のほうが管理者も運転手もコントロールが困難だった/なのです。

なぜならば「予期し得ない事象」がその日に起きるからです。

時間超過による先急ぎ行動防止

三つ目の理由は、安全運航のためです。拘束時間オーバーは運転手の焦りになります。先急ぎ行動によって、事故を起こしてしまいます。時間をコントロールできない状況が、急ぐという心理状態を作り出します。事故、違反だけではなく、接客に関するいろいろな問題は、この先急ぎ行動によって引き起こされています。

2024年問題は問題なのか?

運転手にとっては労働時間が短くなることは良いことなのです。ただ、何度も言いますが、出来高払制の賃金が長時間労働を誘発しています。時間=売上=賃金だからです。時間≠売上=賃金となれば、労働時間は短いほうが幸せです。

会社も、拘束時間や休息時間が短縮されても、売上がこれまでと同じなら問題はないのです。

それに、タクシー運転手の長時間労働と低賃金という労働条件の悪さが、入職率と定着率の低下を招いているとされています。それならなおさら、業界こそ労働時間の短縮を促進し、加速させなければなりません。

運転手不足の原因

つまり、コロナ禍以前から、離職者が入職者を上回っていました。そして問題化していました。離職原因は人それぞれですが、最大の理由は、危険な職業だということです。

  1. 事故の危険
  2. 事故違反による休職、失職の危険
  3. 出来高払制歩合給という賃金の危険
  4. 密室でのカスハラの危険
  5. 健康被害の危険

タクシー運転手は、どう考えても、安心安全な職業、そして職場とは程遠いのです。

そのような中、労働時間、拘束時間が短縮され休息時間が延長されたことは喜ばしいことなのです。2024年問題は運転手にとっては問題ではないのです。問題があるとすれば、時短により供給不足がさらに深刻になり問題が加速すると、ボクたちの労働環境や雇用問題に変化が起きる、ということです。

ライドシェア、特定技能制度

つまり、供給不足解消のために現在の法や制度が改正されるということです。すでに、トラック・バス・タクシーの3業界が国に要望しています。そして、国交省が支援に乗り出しているということです。次は、ライドシェア・自家用有償輸送です。このままの供給不足では、必ず解禁されます。

解禁されて困るのは業界です。そして、困っているのは利用者、つまり国民なのです。2024年問題の核心は「国民の移動の困窮」なのです。そこを踏み違えると、きっと「タクシーいらない」「タクシーこそ違法」なんて言われます。いえ、すでに対立が起きています。

そこが問題なのです。運転手不足、供給不足をどうにか解消しないと、溝は深まります。

改善基準告示の真意

だからこそ、労働時間の短縮と休息時間の延長は不可欠なのです。さらに安全な車両、安心できる賃金制度も必要です。改善基準告示とは、ボクたちの労働環境の改善を目的とされています。それは、働きやすい職場、安全安心な職場にしないと、みんな逃げていくよ、という告示なのです。最低限の基準なのです。2024年問題とされている改善基準告示ですが、実は啓示なのです。

実は、それすらも守れないような事業者があり、それ以上の改善を行おうとしない労働組合がある、それが問題だったのではないのでしょうか。そしてそれこそ2024年問題を引き起こしたのではないのでしょうか。

 

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