賃金と労働の質

賃金が上がるとタクシードライバーの質も上がるんだろうか?

その前に「タクシー運転手の質」ってどうやって計量するのでしょうか。そして簡単にボクたちの質を計れるものなんでしょうか。

次の3項目についてことあるごとに言われるます、よね?

  1. 売上高
  2. 事故件数
  3. クレーム回数

特に1と2は事業の成否に大きく影響します。そしてこれら数値化できる/されたものが評価基準になっています。

評価=賃金

経費に対する人件費が70%という数字でも分かるように、労働集約型産業であるタクシー事業では運転手の売上とその賃金が収益を左右します。

そのため、KGI(最終目標)を定めて、KPI(プロセス目標)に足切りというノルマを設定し、それを越えることが最低基準になっています。

足切り額を越えて初めて人として扱われる、それぐらい厳しい事業者もある/あったようです。そして足切りを境界線にして、賃金に格差が生じます。さらに差がつくような累進歩合制というものまであります。

最終的に目標を越えた余剰金については「解決一時金」という臨時給でその利益を分配することもあります。春闘で定額的な賃上げができないので、儲かったら一時金として支払うというわけです。

足というノルマ達成こそが評価の最低基準です。そして売上に比例して賃金が上昇します。賃金が労働者の価値ならば、運転手の評価=賃金なのです。売上以外で加給されることもはありません。

タクシー 原価構成表
図1 タクシー事業の原価構成1

上記3項目のほかにはないのでしょうか。

タクシー運転手の質4項目

接客態度(接遇)や勤務態度は、モニタリングやドラレコチェックになるので時間と費用がかかりすぎます。

では、配車回数はどうでしょう。

配車と愛社 – 道中の点検に」も書きましたが、自社無線は顧客の囲い込みには欠くことができません。そして「使えるアプリ」として評価されるためにも配車は重要です。

となると、

  1. 売上高
  2. 故件数
  3. クレーム回数
  4. 配車回数

質の高い運転手は1~4によって計量化できそうです。

売上=質

前項でも述べたように、売上=賃金、売上の高い運転手が良い運転手になります。

本当にそうでしょうか?

そうであれば、東京のほうが地方のタクシー運転手より質が高いということになります。確かに、売上=客単価×回数なので、多くの人を幸せにした、ということでは、良い運転手かもしれません。経営者にとっても、売上=質になるでしょう。

経験=売上

桃栗三年柿八年、真打は10年もの経験が必要です。一人前になるにはそれぐらいの年数がかかるということです。

確かに、経験年数が長くなれば地理に詳しくはなります。そして、ナビがない時代はその専門性が重要視されました。

経験とともに地理だけではなく、接客の技術も磨かれた、まあ、たぶん、そうでしょう。

経験≠売上

 


図2 賃金カーブ

図2の賃金カーブが示唆するように、経験年数は売上高に比例はしません。50歳を境に右肩下がりになっています。経験や年齢が必ずしも売上には関係しないということです。

若さ=売上

売上=客単価×回数です。とすると、客単価は統制できませんから、回数を増やすことで売上が多くなるはずです。回数=時間になります。長時間労働を可能にするのは体力でしょうか。長時間労働に加えて深夜勤務、やはり体力は必要です。

入社後最初の2年〜3年は面白い時期かもしれません。ゲーム感覚で仕事ができるかもしれません。何しろスコア=賃金です。メーターの累計営業収入を見ることが多い時期でもあります。

体力=売上

その結果、20代で最も高い賃金カーブになっていることを考えると体力ということも考えられます。確かに休憩なしの長時間労働をやれる体力も必要でしょう。おじさんは疲れやすい。もっとおじさんはさらに疲れやすい、ということです。

収益額と収益率

1~4の項目で数値化すると、結局売上とコスパが高いことが質の高い運転手ということです。その中でも売上の比率が高い、ということです。

 

賃金とサービスの質グラフ

図3 賃金とサービスの質

図3は賃金が高くなれば運転手の質も高くなるということを図式化したものです。これまで述べてきた評価=賃金、売上=質をそのままグラフ化した、それだけのことです。

質=賃金

賃金とサービスの質2

図4 賃金とサービスの質2

しかし実際は図4のような曲線になるはずです。なぜならば、売上=回数は合理的効率的に運行をします。そののために雑な接客(短距離利用者の乗車拒否など)が起きやすくなる傾向にあります。事故も疲労から起きることが多く、売上のある地点を超えるとリスクが高くなるはずです。このことが出来高制歩合給と公共交通としてのタクシーの親和性を低くしています。

それに運転手としては、売上=質をすべて肯定することは、自己否定になりかねません。なぜならば、売上=質だからです。

そして入職者に限ると、高賃金目当ての人がタクシー運転手に応募するようになるからです。次に示す「社会が必要とすること」という使命感を持たない人が増えるということです。お金目当てになります。

社会が必要とすること

次のようなベン図が話題になりました。

ikigai ベン図
図表1 ikigai ベン図2
 

「収入を得られること」と「社会が必要とすること」の共通項が「天職」となっています。天職でなくとも、職業(の質)には賃金以外に使命感が必要になるはずです。そして長続きするにも使命感は欠かせないでしょう。

タクシー業界に入ってくる人たちも「移動で人を幸せに」に近い感覚のことを話してくれます。人の役に立ちたい、社会が必要とすることをしたい、という職業観の人が多いことに驚かされます。

そして、公共交通機関であるタクシー事業は、まさに社会が必要とする職業です。

使命感=質ということが言えると考えますが、ところが上述の通り、質=賃金が成立するのもタクシー業界です。このことは、タクシーの賃金が出来高制歩合給だからです。

公共交通と歩合給

出来高制歩合給、そのことこそタクシー業界の宿痾なのです。歩合給は公共交通と相性が悪いのです。そして、これまで書いてきたように運行収入の多寡が運転手の質を決定します。

その多寡に比例する賃金が運転手の評価になるとしたら、それはサービスや接遇とは何か違う、例えばクローン技術を用いた農作物生産のような、どこか歪さを感じてしまうのです。移動サービスはそれで良いのでしょうか?それで良いのなら、クローンによる輸送を行なってください。人ではなく機械によるサービス、自動運転タクシーによるタクシーの全肯定になりませんか。

賃金と労働条件

運賃値上げによる賃上げで労働条件を改善して人材を確保する、と、業界あげて言っています。しかし、賃金が上がれば労働条件が良くなるかというと、そうではありません。

出来高制という成果主義では、賃金=質というジレンマは常についてまわります。確かに賃金が上がることは必要不可欠です。しかし、現在の制度、出来高制歩合給では、何年経っても安心安全な職場(職業)にはならないのです。市況や事故事件、病気や怪我に影響を受ける賃金制度は、いくら運賃が上がったとしても、労働条件の改善には直結しません。そして労働の質にも同じことです。

歩合給を捨てて固定給へ

そうしなければ、いつまで経ってもタクシーなのです。タクシーに人が集まらないのは、タクシーがタクシーだからです。その特性を改革しない限り、やっぱりタクシーはタクシーなのです。その最も特質的なものが、成果主義、出来高制歩合給なのです。

また、固定給を確立しないと、都市部と地方の賃金格差は拡大する一方です。東京や名古屋、大阪にタクシー労働者が流れていきます。地方の移動はこれまで以上に困窮化します。

それでいい、というのなら、それで良いのです。ただ、地方はタクシーさえも捨てて、規制のない移動サービスを認めてください。自家用有償も、個人タクシー開業も、すべて自由にさせてもらいたいもんだと、考えています。

これまでの通りの制度では、結局、利用者と運転手に負担をかけることになります。運賃は上がり、賃金は下がる。公共交通として供給もできないで、さらにその質を落としてゆく。という運命なのです。

ということで、長々と書きましたが、脱売上(賃金)=質なのです。

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