鶴瓶の家族に乾杯豊橋編とトヨタ自動車の操業停止で考えたこと

豊橋の労働力は5つに分類されるのかもしれません。

一つめはブラジル人。

その多くは郊外にある岩田団地や多米団地という公営住宅に住んで、この地域の主幹産業である自動車製造に非正規労働者として働いています。

二つめは研修生。

もうひとつの基幹産業である農業には、中国からの研修生という名の労働力が存在します。大村や下地で若い中国人の女の子が集団で自転車に乗っていたりして驚くことがあります。

三つめは日本人の若者。

派遣社員や期間工といった非正規労働者として全国から集まった若者の多くは自動車産業に従事しています。ボクもそのひとりでした。
どれも非正規という格差の中にあっては、厳しい労働条件の中、いろいろな権利を使えずに、ある時は使い捨てられ、ある時は奴隷のように扱われ、この街にへばり付くように生きています。

四つめは中小企業の正社員。

五つめは大企業の正社員や公務員。

この五つの労働力がヒエラルキーとして、分かりやすくキチンと割と目につく形でこの街には存在していると思います。

その階層の下の人たちの多くはブラジル人だったり研修生だったり派遣社員や期間工のように豊橋へ仕事を求めて流入してきた人たちです。そのよそ者である流入者が、処刑され見殺しにされているとしても見て見ぬふりが出来る、というのが豊橋市の人なのかもしれません。

いえ、決して悪い意味ではなくて、どこの土地でも同じことなのですが、豊橋にはほかの土地には見られないボクたちが自然と街に溶け込んで暮らせる雰囲気や場所があるように思います。

現在の自動車産業の発展だけがその原因をつくったのではなくて、地方から紡績工として集団就職でやってきた女性たち、あるいは宿場町と旅人、その関係がそのまま現在の労働力としてのよそ者との距離感、そういったボクが感じる雰囲気や場所を作る要因になったのかもしれません。

街の規模の割には地域意識が強い、例えば祭りの時の地区割りみたいなもの、校区なんてものでの結びつき、そういった(排他的ともいえるムラ的な雰囲気)が感じられるとしても、一方では完全に排除しないで同居できる寛容さ、というか、無関心でいられる非情さみたいなものが、人々に備わっているのではないかと思います。

さてさて、NHK「鶴瓶の家族に乾杯」という番組、2月1日と2月8日の放映は豊橋市でのロケでした。8日の放送は(実は8日の放送しか見ていないのですが)加藤茶さんが岩田団地のブラジル人家族を訪問するという内容で、心臓の手術を何度も何度もしている女の子とその両親が出演していました。

父親は自動車関連企業の派遣社員です。

ボクたちの知らない角で、ボクたちの知らない哀しみが進行している。なんにもボクたちは知らないでいるのです。街は、華やかにその装いを見せるのだけれど、その陰にはいつも哀しみがあるのです。

そんな重い病気の娘さんを育てながら、家族はとても明るく、そうしてたぶん父親は一生懸命、生きているように感じました。

今日、きっと、トヨタ自動車のラインは操業再開されたのでしょう。

愛知製鋼で起きた爆発事故の影響で操業停止になったトヨタ自動車、トヨタの社員についての損失は振り替え出勤や有休取得を強要というものだけなのだろうけれど(まあ、これも労働基準法違反の疑いがって、中越沖地震での操業停止の時にも問題になったのだけど)、下請け企業は孫請け企業で働く労働者、それ以上にその下請け企業の派遣社員や期間工、非正規労働者は、なんの保証もなく有給休暇なんてものも与えられることなく、そうしてそれを口に出す権利なんてものも奪われていて、丸損なのでしょうね。

例えば、心臓の手術をしている女の子の父親は「しかたないかあ」なんてその間の無収入状態を受容れているのでしょう。派遣元に、派遣先に「労基法違反ですよね」なんて言えるわけがない。まして彼らを支える労働組合なんてものが存在しない。

トヨタは「停止」そして「再開」で済んだかもしれないけれど、彼らにとってはその「停止」がそのまま死を意味するものだったかもしれない、そう思うのです。トヨタ社員は振替とか年休なんてことで済んだかもしれないけれど、彼らにはなんら補償もないというのが現実なのです。格差なんて耳ざわりの良いコトバで済む問題ではなくて、実は奴隷制度なのです。労基法違反なんて問題ではなくて人権問題なのです。そうしてその問題の、その仕組みの頂点に立つのは、トヨタ本体なのです。どれほど人々が苦しもうと、常にトヨタにだけは利益があるのです。

家族に乾杯を見て、ボクは豊橋の影の部分を思ったのです。鮮やかで華やかに見えるのだけれど、そうして海から本宮山までの広大な平野に燦々と光は差しているように見えるけれど、かなり残酷な影をこの街はその裏側に同居させて存在しているのだと思います。

あなたたちの乾杯は、実はそんな影の部分によってもたらされているということを気づいてください。

鶴瓶の家族に乾杯 豊橋 - NHKのテレビ画面スクリーンショット

鶴瓶の家族に乾杯 – NHK

3件のコメント

  • blank

    >けんちんうどんさんへ

    おひさしぶりです。
    いつも暖かいコメントありがとうございます。

    なんだかずいぶんとギスギスした世の中になったのか、ボクが知らなかったのか、世の中から優しさみたいなものが失われているようにも思います。

    それはきっと夢とか希望なんてものがないからかもしれないけれど。

    九州のほうが、こちらよりすこし春に近づいているかもしれませんね。

    >えいたさんへ

    どうも。ありがとうございます。

    M鉄ですか。こちらにもM鉄のT鉄のH鉄なんてみょうな関係のタクシー会社がありますけれど・・・。

    たしかに2月は暇な時期ですが、まあ、それでも運賃改定で前年よりはって感じかなあ。

    名古屋だとこちらより収入は良いのでしょうね。売上よりは小さな町でやってみたいと思ったりもしますが、きっと人間関係が難しいのかなあ、なんて思ったり。

    お互い安全運転でやっていかなきゃいけないですね。

  • blank

    ブログの方拝見しました。 ものすごい文章力で、、、感心しました。
    自分もブログの方は5年近く書いてましたが去年の夏から中断してます。
    自分も名古屋でタクシー運転手をしていますがやはり2月に入って暇になりました。
    自分の班にも豊橋から通で来てる人がいます。
    ただ名古屋も初乗り運賃は500円と安いですが1万以上のお客様も1日1〜3名はいます。
    ちなみに自分はM鉄交通です。

  • blank

    「ボクたちの知らない角で、ボクたちの知らない哀しみが進行している。なんにもボクたちは知らないでいるのです。街は、華やかにその装いを見せるのだけれど、その陰にはいつも哀しみがあるのです。」

    定年退職してから4年。皿洗いやメール便の仕事をして、このことが少しずつ分かってきました。

    田原笠山さんのブログ、毎日拝読させていただいています。
    世の中の大切な教えていただいていること、感謝しております。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA