「龍馬伝」でのお元役はとても良かったと思うのだ。蒼井優さんの独特の切なさが漂ってくる感じが好きなのだ。例えばそれは田中裕子さんのようでもあるのだけれど、もっと深く重い傷を心に負っているような、そんな痛々しい切なさ。あのお元は、たぶん、彼女じゃなきゃ出来なかったと思う。それぐらい印象に残っている。
その蒼井優さん、日本郵便の年賀状のCMに登場している。キャッチコピーは「また、人が人を想う季節が、やって来た。」。
蒼井優が年賀状の“顔”に ＣＭ４編放送へ
このCMもかなり良い。「年賀状は贈り物だと思う。」というコピーも、なるほど、と考えさせられる。メールや電話よりは「贈り物」度が高いと思うし、手書きの年賀状を見るとその人の体温まで伝わってくるようで、大事に取っておこうと思う。手作りの年賀状はそれ自体、芸術作品だし、そうなると立派な贈り物だろうし。
年賀状という文化、それはそれですばらしいと思う。年賀状をきっかけに書道やペン習字を学ぶ人が出てくるし、日本の伝統や文化、母国語について考える機会が出来ることは良いことだと思う。年賀状で繋がっている人たちもいるだろうし、息災を知ることだってあるだろうし、直接言えなかった感謝の言葉を言うことだって出来るのだし…。
年賀状という文化はすばらしい。
ところが、その文化を守るために、いや日本郵便の最大のイベントを成功させるために、正月の元旦に寒風吹き荒ぶ中、配達する人がいるということを考えると、何か年賀状を出すことが悪いことのように思うのだ。
いや、その配達する人が、日本郵便の職員で、その日に出勤することによって休日手当てなんかの優遇があり、その出勤が将来的には数倍物価値になって戻ってくるという前提の下で勤務する人たちならば、そこまで考えない。少し前まではほとんどがそういう人たちで、アルバイトはいたとしても少数で、多くは学生だったはずだ。
今はというと、多くはゆうメイトと呼ばれる非正規社員たちだ。時給800円程度、JPの職員とは天と地の収入格差だ。もちろんいらなくなったらポイ捨てされる。郵便事業が民営化されて利益が優先されるようになって、非正規率はさらに高くなっているはずだ。
「また、人が人を人と思わない季節が、やって来た。」のだ。
その「贈り物」を贈るために、奴隷のように働かなければならない人がいる。
いや、それはもうサービス業の宿命かもしれない。非正規社員率の高いコンビニはもちろん、ファーストフード店、スーパーや百貨店も、元日営業が普通になってきている。
便利さは幸福格差を生む。
ひとりが何かを求めれば、ひとりが不幸になる。いや、昔から正月営業なんてところはあった。あったのだけれど、そこでの利益を上乗せして配分していたはずだ。親方が「餅代」として給料とは別に配っていたはずだ。今は時給800円、なにがなんでも800円なのだ。企業は働く人の幸せよりも株主の幸せを考える。「餅代」は株主へまわる。
そんなことを考えると、年賀状は出せない。「人を想う」と年賀状を出せないないのだ。
いや、年賀状はすばらしい文化だ。だけれど、なにも元旦に届くように前の年に出す必要があるのだろうか、そう思う。せめて正月ぐらいは非正規社員の人たちにも普通の生活を送らせるようにできないものか、そう思う。そういう「想い」こそ、日本人が忘れかけているものではないのだろうか。
蒼井優さんには悪いのだけれど、今年も年賀状は出しません。出すとしても松が明けてからです。

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