無縁坂
運の悪い人生だったのかもしれません。
こうしてタクシー運転手をしていること自体、その運の悪さを物語っているのかもしれません。それ以前、期間工として働き始めたことも、そのきっかけとなった辞職さえ、ボクの運の悪さなのかもしれないと思っています。
タクシー運転手になりたい、と胸膨らませてこの業界に入る人がいったい何人いるのでしょうか。子供たちの将来の夢にしても、電車の運転手やバスの運転手はあっても、「タクシー運転手になりたい」なんて聞いたこともありません。
タクシー会社に就職した理由はというと、多くの人は失業して、そして求職活動をして最後の最後にタクシー運転手という選択しかなかったのかもしれません。その失業の原因もやっぱり晴れ晴れしいものではなくて、定年を含めて年齢的なものや病気、リストラ、雇い止めや派遣切りなんてことだったのでしょう。
ハローワークに失業給付申請を提出する時点で疲れ果てていました。それでもまだその時点では希望もありました。希望はあったのですが、求職活動をして不採用になる度にその光も徐々に暗くなっていきました。そして失業が長期化すると、もう希望なんてものはすっかり喪失して、絶望に変わっていきました。
運が悪い人生だったと思うようになりました。そうしなければ、きっと、ボク自身を否定しなければならなかったと思います。
人はほんの少しのタイミングでいろいろなことが大きく変化します。例えば交通事故。1秒、交差点に進入するのが遅かったら、あるいは早かったら、事故なんて起こらなかったということがほとんどです。たった1秒の差で死んだり殺したりする。
そういったタイミングの良さとか悪さみたいなものが運なのかもしれません。人との出会いや別離もそうでしょうし…。
運がいいとか 悪いとか
人は時々口にするけど
あなたをみててそう思う
グレープ 無縁坂 歌詞 – 歌ネット
そうして辿り着いたタクシー運転手という仕事なのですが、それとて毎日「運、不運」なんてことを考えます。いえ、運と不運の連続がタクシー運転手なのでしょう。少しのタイミングで毎日の売上が変わってしまう。
朝、1時間待って乗せたお客様がコロ(ワンメーター)でした。そしてまた1時間待って乗せたお客様もコロでした。1360円というのが3時間の売上でした。
いえ、コロがいけないというわけではありません。そういうのが続くとやっぱり「運」なんてことを考えてしまうのです。ボクの前のタクシーが遠距離に行ったなんてことを聞くとなお更なのです。そして一日が終って、売上が少ないと哀しくなるのです。
いえ、それでも、お客様に「ありがとう」なんて言われると良い一日になるのですが、そんな日に限って道を間違えて怒られたりします。
悲しいのは、そうしているうちにお客様を怨んでしまっていることなのです。「なんでオレの車ばかり乗ってくるんだよ」なんて…。
運の悪い男が今ら自分の不運さを嘆いている姿なんてのは滑稽なのかもしれませんね。こうして文章として書くということも、虚しいようでもあります。
もう寝ます。
石巻山遥拝