豊橋の夜は静かになったのだろうか？
迷惑行為防止条例、正式には「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」というのだそうだが、これが6月1日に改正され「客引き、勧誘、一定の誘引行為を行う目的で、公衆の目に触れるような方法により、これらの相手方となるべき者を待つ行為」という客引き、誘引行為だけではなくて、それを目的とする客待ち行為自体も禁止するという条例が新設された。
『｢客引き等の相手方となるべき者を待つ行為｣とは、たたずんだり、うろついたり、たむろする等して、客引き等の対象となる通行人が来るのを待つ行為』をいうそうなので、広小路の路上にいた「マッサージどう？」なんて中国人や「チンチンきもちんいいよん」なんて国籍不明アジア系の女性がいなくなるということだ。
あの大通りで、時には中高生男子に声をかけていた、そして散歩中のボクにも声をかけていた、有難迷惑なお姉ちゃんたちがいなくなって、個人的には良かったと思うのだけれど（だって、精文館書店に行くためにあんなことを言われたら、ほんと迷惑だもんね）、そのお姉ちゃんたちを目当てに来ていた人たちもいるだろうし、そしてその人たちが突撃前やその後に寄る飲食店にとっても、痛い改正なのかもしれない。それでも風俗店の営業が禁止されたということではないので、風俗男子たちは広小路や松葉へやってくる。
タクシー業界はどうかというと、それほど影響はない、というか、今のところ変化が感じられない、といったところだろうか。風俗男子にとっては客引きの有無ってことよりも、お店のクオリティーのほうが重要なのだろうし、客引きで眼鏡が曇るなんてこともあるのだろうから、やはりそれほど影響がないのだろうと思うと、タクシー利用者数と今回の条例改正の因果関係ってのは僅かなものだと思う。
客引きやポン引き自体が「迷惑」ということではなくて、あのような駅前の小中学校の生徒が往来する、そしてボクが散歩する一般道に、ポン引きや売春婦がたたずんだり、うろついたり、たむろしているということが迷惑なのだろう。広小路ではなくて松葉小路やさくら通りなんて飲食街だけならば、そんなに迷惑になるってこともないだろう。必要としている人たちもいるのも確かだし、それで食べている人たちもいるのだし。それにボクたちにとってはあの猥雑とした松葉の案内人として店の場所を教えてくれる人でもあったというこを考えると、やっぱりその存在よりも場所の問題かなあ、と思う。
若い頃は、例えば、旅行に行くと、そういうポン引きのいる地域、あるいは立ちんぼのいるところへ行ったし、そのほうが面白かった。ポン引き婆さん（推定当時60歳）がそのまま現れた別府ワニ地獄の夜や、綺麗なお姉ちゃんだと思ったのが、どうも女性ではないのではなかったのではないかといまだに不思議な広島泥酔の夜、なんてのは思い出深い青春の一コマだったりする。それもこれもポン引きや客引きのおかげだったりする。（てか、騙されているのだけれど）
アジアやアフリカでは電車やバスを降りると客引きの大群が押し寄せてくる。タクシー、ホテル、荷物、両替、土産、「友達を探しているのか」なんてわけのわからない人まで寄ってくる。それはほとんどが迷惑で鬱陶しいのだけれど、時のは「ありがたい」と思う瞬間もある。
案内板によって人の全ての欲望が満たされるとしたら、それはそれでとても整序された社会なのかもしれないけれど、そしてたぶんそういう社会になってきて、情報ってのもがほとんど視覚によってだけ得られる仕組みになってきているのだけれど、ほんとうはそういった混沌とした感覚の中で得ることが（それは体温を伴って）、ボクたちの何かを発達させるために、例えば情緒なんてものを育むために必要なものじゃないかと思ったりする。
この客引きやポン引きなんてのは話が別としても、道具の発達、それによるコスト削減みたいなことで、中を飛ばしてしまうことが素晴らしいことのように言われる。例えばタクシー業界でもスマホ配車のようなものまで現れる、例えばネット通販なんてのもそのひとつだ。人と人なんて共同社会の中でもっとも大切なものが削減されているようでもある。
たぶん、企業コストとして削減されたものは、社会コストとしてきっとそのツケを支払う時がくる。その時は何倍もなってボクらを苦しめることになる。いやもうすでに来ていて、非婚化や少子化、高齢化問題にそのツケが含まれている。
そしてこれから海外に出かける若者たちは、そういった客引きやポン引きを異文化として学ばなければならなくなる。ほとんど無菌化された社会を作ること、それはほんとうに良いことなのだろうか、なんて静まり返った松葉の夜に思うのだ。

公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例の一部改正