B1グランプリ前夜

池船町にあった天野食堂は、あの頃、もう70歳を前にした老夫婦が細々と経営していた小さな店だった。メニューは「朝食」「焼きめし」「ごまだしうどん」、それに「鳥天」だけだったように憶えている。それでもそのひとつひとつを丁寧に作っていて(たぶん夫婦ふたりだとそれぐらいが限界なのだ)、誰に聞いても「天野食堂は安くて美味しい」と評判の店だったし、何十年たった今でも想い出すぐらいの、ボクたちにとってのソウルフードなのだ。
ごまだしうどんはすり鉢で造っていた自家製で、きちんと海の香りがした。そんな素朴な味の上に、ボクたちの妙に複雑な青春が重なっていて、いまだにクッキリと輪郭をもっているのだから、なんだかそれはそれで驚いてしまう。
天野食堂のごまだしうどん、それはボクの「あの頃」そのものだったりする。舌の記憶というのはかなり正確で、他の感覚機能よりもキチンと記憶されていてる。
その味がやってくる。B1グランプリとはそんな懐かしい味との再会なのだ。北海道大物産展や九州物産展ではけっして食べることのできないものがやってくる。少し前に「ふるさとの訛りなつかしB1の人ごみの中にそを聴きにゆく」(もちろん元は石川啄木ですが)なんことを書いたのだけれど、B1とは現在の上野駅なのかもしれない。それも移動する上野駅。そしてボクたちは懐かしいものとの再会をそこで果たす。
B級グルメを食べる大会だけではないはずだし、地域おこしだけでもないはずだ。それをみんな薄々分かっている。舌の記憶というボクたちの魂のありかと再会するというドラマティックなイベントなのだ。そう思う。ボクたちは母の乳の記憶を求めている。その遡上こそが生きると言う意味なのだ。(なんてよくわからないけれど…)
いよいよB1グランプリ in 豊川が明日開催される。もうすっかりと準備のできた会場は大きく呼吸をしているように感じた。
B1グランプリ in 豊川、豊川駅のトイレ
豊川駅のトイレもB1一食です。もとい、一色です。

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