尾張三河地区タクシー運賃改定、その特徴と問題点

昨年の7月より申請が始まった尾張三河地区タクシー運賃改定、値上げが正式に決定しました。

申請開始から8か月、日程はスケジュール通です。なお、改定率は要請よりは10%程度低いものになりました。


尾張・三河地区タクシーの運賃改定について 国土交通省

新運賃実施日は3月20日、改定率は11.91%になります。

どれくらいの値上げになりますか?

距離と運賃の値上前後の差は、次の図のような金額になります。6キロ利用で240円の値上がり、ということです。

尾張・三河地区タクシー新運賃 距離別増額表
図1 尾張・三河地区タクシー新運賃 距離別増額表

値上げ後の運賃と距離の関係は次のグラフのようになります。

尾張・三河地区タクシー運賃新旧比較表
図2 尾張・三河地区タクシー運賃新旧比較表

中部国際空港や各駅からの改定前後の運賃は次の図のようになります。

国交省 タクシー運賃値上げ表図
図3 国交省 値上げ表図

尾張三河地区タクシーの運賃改定について

国土交通省は次のように説明しています。

 今回の運賃改定要請については、運転者の労働条件の改善が主要な理由のひとつとしてあげられていることを踏まえ、タクシーサービスの質を維持するためには運転者の労働条件について一定の水準を確保することが必要であることを勘案し、実績における運送収入に対する運転者人件費の割合を維持したうえで、健全な経営が成立する水準の運賃を設定するという考え方に基づき査定を行ったところです。

 

このため、今回の運賃改定実施により、運転者の労働条件の改善が適切に図られるよう、愛知県タクシー協会に対して、「運転者の労働条件の改善が適切に図られること。」「運転者の労働条件改善についての考え方を利用者に対して積極的に表明するとともに、運転者の労働条件の改善状況及び講じた措置などを自主的に公表すること。」について指導をすることとしています。

尾張・三河地区タクシーの運賃改定について 国土交通省

原価計算対象事業者15社の令和5年度(2022年度)の収支査定は、運送収入9,599,756,000円で、収支率94.64%でした。この数字に11.91%の所要増収率を加えて収支率100%となる数字を求めました。

尾張・三河地区タクシー事業の収支実積及び推定収支
図4 尾張・三河地区タクシー事業の収支実績及び推定収支

6.42%の適正利潤を含む収支率100%の経営を行えるように、運送収入で11.91%の増収を行う、ということになります。

運賃改定の特徴

それは、運転者人件費の構成比を、実績、要請、査定よりも増加させたことです。

これは、人件費を必ず上げろ、という国交省の強いメッセージとも受け取られます。

さらに、愛知県タクシー協会へ次の指導を行っています。

  • 運転者の労働条件の改善が適切に図られること
  • 運転者の労働条件改善についての考え方を利用者に対して積極的に表明するとともに
  • 運転者の労働条件の改善状況及び講じた措置などを自主的に公表すること

タクシー運賃値上げ費用構成費
図5 運賃改定費用構成費

賃金と運賃改定

タクシー運転手の賃金は出来高制の歩合給です。つまり、運賃の値上げが賃金の上昇になるとは限りません。

例えば、定額月給制ならば10%賃上げで、20万円が22万円になります。ところが、市場の状況により出来不出来が変化するタクシー運転手は定率で上がりません。それどころか、下がることもあります。今回のコロナ禍での低収入が良い例です。そして、病気やケガ、事故のリスクもつきまといます。

さらには、運賃改定時に歩率を下げる、足切り額を上げるなどの賃金調整を行う(スライド賃下げ)悪知恵の働く事業者もいるようです。

このような行為は「運転者の労働条件の改善が主要な理由のひとつ」とする賃上げの目的から逸脱するものです。

私たちの今

今回の運賃改定に際して「運転手の労働条件の改善」か明言されたことはありがたいことです。

しかし、相変わらず長時間労働、低賃金、危険のリスクは高いままです。ただ、2022年の3月以降、稼働台当たり1日の運送収入は過去最高になっています。(田原調べ)これは運転手不足を原因とする供給不足によるものです。豊橋市内で言えば、どの時間帯においてもタクシーが足りない、という状況です。

次のグラフの数字は、隔日勤務のない勤務シフトのみでの平均値です。賃金=日車(この数字)×勤務日数(20日~22日)×歩率(≒50%)になります。

 

年度別タクシー運転手の運送収入(一日稼働台当たり)
図6 年度別タクシー運転手の運送収入(一日稼働台当たり)

私たちの賃金(日車営収)は高いものになっていますが、会社はタクシー運転手不足から稼働率が低いままです。ですから会社の運送収入は2019年度比で90%程度です。このことが今現在タクシー業界の問題となっています。労働環境を整備することで、タクシー運転手を増やさないと公共交通としての使命を果たせなくなる、ということです。

三河地区2022年9月度タクシー実績2019年度比
図7 三河地区2022年9月度タクシー実績2019年度比

春闘と運賃改定

ちょうど春闘の時期に運賃値上げが発表されたことは、事業者にとっては好都合でしょう。「今回の運賃改定で10%程度の運送収入増収が見込めます」と労使協議の場でノックアウトされそうです。

春闘の賃上げでいえば、運転手だけの労働組合だけではなく、配車センターや一般管理者も組合員というところもあるでしょう。

運転手の賃金は運送収入の出来高制歩合給なので、運賃値上げが賃金に掛かってきますが、それ以外の組合員についても、賃上げ交渉をしっかり行ってもらいたいと思います。

乗務員以外の賃上げ

そういった運転手以外の配車係や運行管理者も「タクシーサービスの質を維持するためには」「労働条件について一定の水準を確保することが必要」だということに変わりはありません。

いえ、配車や運行管理の質の向上が直接運送収入増収になります。無事故が経費の圧縮になり、収支率を上げることになります。

さらには、運行管理者の質の向上こそ、運転手の職場環境の改善と離職率の低減に直結しています。

となると、運行管理者の労働条件の改善が実働率改善につながるということです。また、運転手から運行管理者になる場合が多いことを考えると、運行管理者の離職は運転手の減少(=稼働率の減少)になるということです。

春よ来い!

LPGガスの値段だけが高くなっているわけではありません。そのほかの物価も高くなる一方です。物価が高くなる=労働者の賃金が上がる、そして私たちの生活水準が上がる、という仕組みになれば良いのです。

貧困の中で我慢をする生活ではなく、賃金が上がりながら豊かな未来が想像できるようになれば、さらに消費も活発になります。景気も良くなります。景気が良くなれば、タクシー利用者も増えて運送収入も増えます。おのずと賃金も上がります。

事業者の経営がよくなれば、労働環境も改善されることでしょう。好景気が安全な自動車、安心できる移動システムを創出するはずです。

そのためには、ボクたちの賃金が上がることが必須条件なのです。まず、今回の運賃値上げ。その結果として、タクシー業界の労働条件の改善。さらに安全安心な移動手段へ。それがすべての人たちの幸せにつながると思います。移動で人を幸せに、なのですから。

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