トヨタの寮ですから、そこに住む人はトヨタで働く人なのでしょうが、会社が大きいとどの工場のどの部門で働いているのか、あるいは正社員なのか期間従業員なのか分かりませんね。田原だと田原工場で働いていると、ほぼ断定できるのですが、本社地区の寮ですと、どこの工場なのかも分からない、ということになるのでしょう。

直が違うと顔を合わすことも少ないでしょうから、名前は名札で分かるけれど、それがどんな人なのか知らないということになると思います。

また、隣近所の人が洗面所にいるときなんかは、いくら自分が行きたくても、少し待ってから行くというようなことも、暗黙の了解みたいなもので、遠慮というか、顔を合わせるのが面倒くさいのか、あるようです。ですから、トイレや洗面所が混みあうということもありませんし、同時に何人も使っているというような光景も見たことがありません。そういった秩序を、知らず知らずに動物的本能で作り出しているのだろうと、思うのですが。

その田原寮からは三河湾に沈む夕陽も見られる。

ある日、廊下ですれ違った人が、自分の部屋の隣のドアを開けた。それが初めての出逢い、なんてところでしょうか。その時に、名前でかなりのことまで判断していた自分の想像していたお隣さんとは、かなりかけ離れていた、なんてことになると思います。ぴったしだった、運命の出逢い、なんてことはレアケースでしょうね。

その初めての出逢いから、今まで持っていたお隣さんへの感情とは別のものが生まれてきたりもします。名前でだけしか判断できなかったのですが、顔容での判断材料も加わってきましたから。

しかし、それを機に仲良くなるというわけでもないと思います。今まで許せなかったことが許せたり、また逆のことはあると思いますが、「やあ、どうもどうも、はじめまして、仕事疲れますよね～」なんてことにはならないでしょう。またまた逆に「なめんなよ～、ｺﾞﾙｧ!ドアの開け閉めの音がうるせ～んだよ」なんて心の中で叫ぶのかもしれませんね。

静かな階と、そうでない階があって、後者というのはどうも全体的にもう「ｺﾞﾙｧ!」状態が続いていて、目には目を歯には歯をという、そしてそこには会話のない闘争が繰り返されているのではないかと考えています。でもそれは自爆テロみたいなもんかもしれないと…。結局傷つくのは本人なんだろうと思います。精神的にもですね。

ある日、ボクの部屋の前に50歳ぐらいの人がいて、ドアに鍵を差し込もうとしていました。「ｺﾞﾙｧ!おっさん、なにしとるねん。そこはわしの部屋やんけ～」と、なぜか2ch語と大阪弁になって（ま、半分作り話ってことで）叫んでいると（もちろん声には出さずに）、寝ぼけて部屋を間違えた隣の人でした。少し淋しげな前頭葉。

ボク、その時に決めたんです。「全て許そう」と。