ひと足遅れの春

岡山の再会もだけれど、また21年ぶりに昔の仲間と会った。
正確にカウントできる21年は、1987年というボクたちの想い出の出発点である春が、それまでも、そしてそれからも経験したことのない質感を持った日々だったので、過ぎ去るほどに重量を増してきていたように思う。暗号のように、例えば昭和20年の8月のように。
というか、信じられないだろうけれど、時間が、それも1秒単位で綺麗に畳まれて、記憶装置の中に収納されている、なんなんだろう、強烈な想い出とか出来事が起こったわけではないのだけれど、そこを基点に過去と未来も振り分けれれてしまっている、というような感じの日々がボクたちの21年前だったのだろうと思っている。
と言っても、ボクは、その21年前という基点から変化を続けているのではなくて、ボクだけが、その21年前という年から何も変っていないというのが、どうも本当のようで、それは外見、例えば靴のサイズとか洋服のサイズとか、少し癖のある話し方とか、やっぱりうつむき加減の会話みたいに、人として成長しなければならなかった部分さえも、あの頃と同じままでいるせいなのかもしれないと思っている。
想い出というのは、出来事を思い出す行為というよりも、例えば自分の身体を見るようなことのように思っている。背中なんてのは、存在したとしても日々の生活の中では見ることが出来ないものだったり、そして思い出す必要もなく、そこに在るものなのだろうしね。見たくなければ見る必要もないのだし、見なくてもいいのだし。
それに「なかったこと」に出来るし、それが人ならではの知性なのだから。
実は大部分が「忘れていた」とかではなくて「忘れたことにした」ということのほうが多いように思う。そのほうが生きるということにおいて都合のよいものなのだろうし、綺麗に畳んでなかったとしたら記憶装置の中にはかなり取り出し難い状態で収納されていくのだろうから。そういった「面倒なことを避ける」ということも出来るのが、人の理性なのだから。
そして最も多いだろうと思うのが、想い出を想い出としない、というか、元々存在しなかったものにしてしまう、要するにリセットなんて言葉で表現される能力なのだと思う。生きるうえで必要なことなのだろうけれど、かなり多くの出来事を無視してしまっているのだろうと思うし、出来事どころかある一定の時間帯(6ヶ月とかいうスパンの)を抹殺してしまっていることさえあると思っている。自分の都合の良い部分だけを切り抜いて、そしてそれを収集するというようなことを行なっているのだろうと思う。
でもね、なかなか忘れようとしても忘れられないことだってあるし、そのほうが多いのかもしれないね。想い出というひと塊の形で残るのではなくて、逆に抽出され凝縮されたものだけが痕跡として見えない部分にあるというのは、かなりストレスになることなんだよね。心の傷、なんて言われる過去のこととかのように。喉に刺さった魚の小骨のように。
中学生になる子供もいて、そんな家族のことなんかの想い出と、あの頃の想い出が紡がれている、そんな厚みのある想い出というのが正しい想い出のありかたなのかもしれないと思っている。実はかなりの部分を捨てて生きなければならないのも人としての宿命なのだろうから、こうしてあの頃のままの外見とか、きちんと収納された想い出なんかにしがみついていてることは、少し異質なものなのかもしれないと、思ったりしている。
いや異質というか、かなり不器用な生き方なのだろう。そしてそれはかなり純粋な生き方で、動物的生き方で、人間らしい生き方なんじゃないかと思っている。
そういえばあの頃のボクたちは、家族のようにひとつになっていたし、それは頭で考えて行動していたというよりも、なんだか解らないけれど恋愛みたいなもので、手を繋いだりキスしたり抱き合ったりするように、自己の行動を単純化していたように思っている。(感情って部分でね)
人間らしく、というのとは逆の、人間らしい生き方ってのは、知性とか理性とかではないところでの、感性とか情念とかの部分で生きることも大切なのだろうと思っている。
と、自分を正当化している、ってのがこの長くなった文章に見えるって人が、正解なのだけれど。てか、ま、オレは正しいんだよ~、って叫びでもあるんだけれどね。ウダウダ……。

7件のコメント

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    >渡久米さんへ
    ボクも、若い人はどこかでけりを付けて、道を選択すべきだと思います。30歳までだときっとまだまだ修正が効く年齢ですしね。35歳でももすこし頑張れるだろうし、40歳まででも、逆転できると思います。
    それからは、少し厳しくなるかもしれませんが、まだ望みはあると思います。
    安全に、という意味では「貯蓄が残る」というのは良い考えだと思いますが、ムダな時間の消費ということも考えられたり。奨学金は借金でも、お金だけではなくて、その時間も借りられるということだと思っています。
    ま、そこは、焦る必要もないのだろうけれど。
    >ぐるりんさんへ
    そうですね。年齢によって考え方ってのは違いますし、トヨタの利用方法も変ってくるでしょうね。
    「いい人生」も寄って来ないし「いい運命」も遠ざかるように感じます。
    >稀さんへ
    最終的には金銭的なものも不安定になりますしね。
    60歳かあ、そこまでやるって人も、それに近い人もいますよね。それはそれで良い人生なのかもしれないですね。
    えっと、ま、チャレンジするというのは、気持ちいいものだし、今が全てでもないでしょうしね。ダメ元ってこともあるのだろうし…。って、縁起でもないか。

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    お二人の忠告、胸に突き刺さりました。
    俺は、トヨタで作った貯蓄を元手に、見習いしつつ、奨学金をもらいつつ、専門学校へ通うという青写真を描いてました。
    しかし奨学金と言うと聞こえはいいですが、実体はただの借金ですから。
    学費を全額払ってもなお、貯蓄が残るという状態になるまで、またトヨタで働く覚悟です。

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    そうです。
    帰らないほうがいい。
    安定(金銭面)すると思うけど
    不安定(精神面)になると思います。
    ただし・・・
    その仕事が好きならよい
    人間関係
    作業自体
    浮き沈みはあるけど自分には合ってるってなら別だ
    60まで頑張る覚悟で来ればいい
    そこから自分が変わるかもしれないし・・・・・。
    ・・・・かという
    自分は今年中に方向性決めたい
    やめて・・・・。
    新しい自分にチャレンジ。

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    せっかく、満了によって、
    「TOYOTAという悪夢や呪縛」
    から逃れることが出来たのだから、
    (お金に余裕があるなら、)戻ってくるなと、若者に私は言いたい。
    「TOYOTA」とは、私らのような行き場のない年寄りが来る所なのだ。
    まだ、オリンピックや上海万博がある内は深刻な不景気にはならないだろうから、今の内に正社員になることをお勧めする。
    それに、期間従業員という立場では、「いい女」と巡り合う機会が少なくなるし、「いい女」も寄って来ない。

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    俺はつい先日、通っていた大学の最寄り駅に、5年ぶりに降り立ちました。
    駅から大学までの道は、以前のままの風景もあれば、全く変わってしまった場所もあり、…で、この俺自身は、初めてこの場所に立った12年前と、ほとんど変わっていないことに気づき、愕然としました。
    俺は自分が嫌いで、自分を変えようと必死で努力してきたつもりでしたが、実際には、やっと自分を客観的に見られるようになっただけで。
    今のこの自分が、自分の本質であり、死ぬまで変わらないし、変える必要もないのだろうと感じました。
    これは開き直ったということではなく、このままの自分で生きてゆくしかない、と悟りました。
    満了から1ヶ月足らずで始めた仕事、1ヶ月でやめました。
    またトヨタに戻って貯蓄するつもりです。

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    稀さん、おはようございます。
    おとなになれないおぢさん、なのかもしれない…。
    その普通の生活のどれも充足されてないボクってのは、ま、やっぱり、ダメなんだろうな。
    全てないと、逆に開き直るのかもしれないですね。少しあると満たしたくなる。
    それでも、どこかで満足しないとね。
    きっと、その公園は、春の匂いとはまた違う、稀さんの好きな匂いがしたのでしょうね。

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    大人になれない・・大人。
    ピーターパン・シンドロームでしたっけ?
    マイケルとか?
    いい時代ってのは
    それぞれにあって・・・
    不安感から自分の意思とは違う方向に向いてたり
    就職しないと(働かないと)いけないし(国民の義務だけど)
    結婚
    子供
    まともな生活
    家買ったり
    車買ったり
    難しいからいっぱい・いっぱいになる。
    自分の本当にしたいことが出来なくなる。
    (考えなくなる)
    そして・・・
    情緒不安定になる。
    今日公園で本を読んだ
    10年以上前から時々愛読する本。
    読み返し。
    春の匂いが沢山して
    大きな桜(もう葉っぱ)が癒してくれました。
    また・・行きたいと感じました。
    自分らしさを取り戻すために。

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