梅、生っていたよ

桜の公園は屋台も出ていて、いくつものグループが場所取りしていて、そこですでに小さく宴会が始まっていた。アルコールのにおい、発電機のガソリンのにおい、焼き鳥や焼イカの香ばしい匂いに酔っているのか、ほんの数日前までは死人の体で横たわっていたその公園に存在するすべてのものが、フラフラと起き上がっている、踊っている、そのようにボクには感じられていた。
この数日の寒さに驚いたのは桜なのだろう。細い枝の先にしがみついている蕾も、その奥にある敏感な部分を守るようにキッと閉じてしまった。少女の恥じらい、少女の乳房…。それとは逆に焼りんごの赤色は淫靡さの象徴になってしまっていた。
その公園の近くには梅園があって、少し前まではそこが春の象徴だった。今はもう誰にも相手にされることなく、静かにその使命を全うしている。人はその間を行ったり来たりで、なんとも忙しい。酔ったり歌ったり。
そっと、その静かな梅園に入ってゆく。新緑が西日に浮かんでいる。キラキラ輝いている。寒さがその光を鋭利なものにしている。
よく見ると、梅の実が生っていた。
誰に食べられるのだろうと思った。梅は実、桜は花なんだろうし。梅の実とは言わないしね。「梅の花」というけれど「桜」だし。梅園はあるけれど、桜園はないし。梅は花より実なのだろうし…。
しばらくそこに居てあの頃のことを思い出していた。
梅の実

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