アプリ配車とタクシーの公共性
アプリ配車は利用者の利便性を高めますが、逆に、タクシーの公共性を毀損する弊害も生じさせます。
11月14日から東京特別区武三地区のタクシー運賃が値上がりします。
それを機に迎車回送料金も改定されるようです。
11月14日からの新運賃
次のグラフは新旧運賃の距離運賃比較表です。
流し(走っているタクシー)や、駅、繁華街などの乗場で待機しているタクシー)に乗車するのであれば、グラフの初乗運賃に加算運賃での運賃逓増線です。
迎車回送料金
電話やアプリでの注文には、この運賃に迎車回送料が加算されます。
次の図は今回の新運賃と、報道されている迎車回送料金を加えたグラフです。
この迎車回送料金も営業収入になります。したがって、1乗車につき300円~500円が運転手の営業収入になります。これに歩率を乗じたものが賃金になります。例えば500円は歩率60%では300円の賃金になるということです。
アプリ手配料の導入
さらに今回、新たにアプリ手配料が導入されるようです。
10月17日付 東京交通新聞
東京交通新聞位よれば、このアプリ利用料の導入理由を
「GOの収益は事業者からの手数料負担のみに頼っており、十分に採算化できてない」
「タクシー事業者が手配料全額を負担し続ける形も検討したが、その場合、コスト相当を運賃・料金に転嫁せざるを得なくなる。アプリを利用しないお客にも負担を求める不公平な状況を生み出し、公共交通として適切ではない。運賃清算時に当社が代行収受する形を取る」
と説明しています。
MoT(Mobility Technologies)の配車アプリ「GO」が、配車ごとに100円の配車手数料を導入した、このことについて考えてみました。
利用料と迎車回送料値下げ
今回の「アプリ手配料」は、利用者が運賃・料金とは別に100円を運転手ではなくアプリ運営会社から直接徴収されるようになります。
下の図のように、これまでは運賃と迎車回送料は運転手経由で事業者に納金されていました。そしてその出来高から賃金が支払われていました。しかし、11月14日からはGOでの配車については、回送料の一部が賃金には反映されなくなります。
それどころか、日本交通はアプリ利用料を導入し、迎車回送料を420円から300円に値下げを行います。アプリの利用者は400円(300円+100円)とほぼ改定前と同じ料金になります。しかし、運転手にとっては29%の値下げ(120円/420円)になります。
結果として、日本交通は競争力を落とさず、そして関係会社全体の増収を図り、運転手の賃金を削った、ということになります。(GOの運営会社Motは日本交通の関係会社で、川鍋ハイタク協会会長は両社のトップ)
タクシーの公共性
説明されている、公共のサービスを利用しない人が利用する人のコスト相当を支払うことが「公共交通として適切でない」ということが正しいのであれば、公共という概念が崩壊するのではないかと懸念しています。
というのも公共のサービスは相互扶助ということと切り離せないはずだからです。
共助、相互扶助という理念がなければ、公共の場にもサービス受益格差が生じます。そして、自己責任という暴力が弱者を痛めつけるのではないのでしょうか。
都市部では、いえこの国では、配車はアプリ経由に移行しつつあります。アプリ配車の割合が高くなっている現状で、「アプリを利用しないお客にも負担を求める不公平な状況を生み出す」というのは、格差付けの第一歩のようにも感じます。
従来の電話による配車サービスも「利用しないお客様にも負担」はかかっていました。そのコストがアプリ配車へと移遷しながら事業者のコストを逓減させているのならば、事業者こそアプリ配車により利益を享受しています。
だから運転手と利用者だけに負担を強いることなく、事業者が負担すればいいのです。
アプリを利用しないお客様に負担を求めず、運転手にも負担を求めず、事業者と利用者が負担すれば良いだけの話です。
アプリ配車がタクシーの公共性を毀損している
すでにGOもS.RIDEも「移動権は金次第」という公共交通の理念を毀損する「優先パス1」や「優先配車機能2」で利用者の選別を行なっています。これこそ「公共交通として適切ではない」のです。
そして今回のアプリ利用料です。認可制である運賃とは別建てで利用者から徴収する。今回の運賃値上げの理由のひとつ「運転手の労働環境改善」、賃上げとは逆の方向なのです。
「採算化」できないのであれば退場すればいいのではないですか?力と数を利用して100円もの利用料を半ば強制的に領収するのは、正いですか?なんだか強盗のようにも写りますが。
そして運転手には値下げを行う。これも不当な運転手負担ではないのですか?コスト相当は、事業者が支払えば良いのです。
結局、この利用料も知恵の結晶で、うまいこと考えたなあ、と、思っているのです。
そして、新しい運転手負担が登場しはじめた、そう思っています。