おじさん達の再会

おじさんは30歳と少しだったのだけれど、ボクたちからおじさんと呼ばれていた。それはルックスがオジサンっぽいとか仕草がオジサンみたいだとか言うことがオジサンだ、なんてことではなくて、きっと少しだけ年上だったからという理由だけで「おじさん」と誰とはなしに口にするようになったのだろう。
ボクが日頃使っているTaueche(タウチェと発音するんだけれど、ヒマラヤの名峰タウチェ {6501m}に由来しているんだろうね)のデイパックは、きっと誰も気付いていないと思うのだけれど、もう20年も使っているのだけれど(その割には手入れが良いのでスウェードの部分もカビてもなくて綺麗なんだけれど)、これはそのおじさんが買ってくれたのもで(お金はボクが払ったのだけれど)、あのいつもの調子で「これが一番に決まってるじゃん」なんて渡されたのを今も覚えている。
20年、と言っても、その年に生まれた子どもは今年成人式なんだけれど、そう考えると長い時間が過ぎ去っていて、その間、人間の子どもが成長するほどの劇的な変化も、ボクにはなくて、ここにあるTauecheのデイパックがまだ現役で使われているということと同じくらい、「そういえば」なんて昨日のことと同じレベルでその20年前とかあるいはもっと昔のことを考えてしまう、という、なんだか取り残されてしまったような感じもたまにするんだ。
そのおじさんはいなかったのだけれど、ひさしぶりに昔の仲間と会った。15年とか20年とかぶりだったのだけれど、ボクにとってみれば、やっぱりTauecheのバックぐらいに、そのままのことのように感じる。
きっとボクの身の回りに起こった出来事が少ないのだろうね。人に比べると…。そう言えば、普通ということとは少し違った人生を送っているしね。普通はもう子どもがいたり、その子どもの入学式や卒業式、その前にボクの結婚式なんてのがあって、そんな想い出が飽和状態になってしまっていて、20年前のことなんかはよっぽどのことがない限り、思い出す必要も、そうしてそれをしまって置く必要も、ないのだろうね。
ボクは、20年前にこのTauecheのデイパックをおじさんから受け取った瞬間のことなんかをかなり詳しく覚えていて、それは多分、もう忘れることはないだろうと思われるくらいボクの記憶装置の中では一週間に一度、攪拌されては上のほうに押し上げられる。そしてそれに伴って、その他のことが次々に押し上げられる。ちょうどヌカみそが腐らないような仕組みになっているのだろうと思っているのだけれど。
想い出は変わらないにしても、20年なんていう年月は人の身体を無理やりに変えてしまう。ボクの体型があのころのままだとしても、それは服のサイズだけのことで、もうあの頃みたいに走れないだろうし、あの頃みたいに徹夜で飲んでられないだろうし、なによりも夢なんてことを語れないだろうしね。
そういう意味では、人は変化の途上にあっては、想い出だけではなくて、何かを捨てたり何かを拾ったりしながら生きているのだろうね。そして拾うもののほうが多いのだろうし、捨てる、あるいは捨てないとしても、過去はどんどん希釈されてしまうのだろうね。それが普通の生き方なんだろうと思う。
そんでも、ひとつ、あるいはふたつ、きちんと手入れしていれば、それは有形無形かかわらず、それを基点に想い出をたぐり寄せられると思っている。きっと、それがボクたちにとってはおじさんだったり、ボクにとってはTauecheのデイパックだったりするのだろうと思うのだけれど。あの年が、そしてあの何年間がボクたちの基点になっていて、そこからひとつふたつと数えているのだろうと思っている。
というか、そんな古いことや、古いものを自慢することが、なんていうか「おじさん」になった証拠なんだろうね。証拠を出さなくてもおじさんなんだけれど。「そんな昔のこと…」を聞いて、「そんな昔のことを覚えてない」のが、おじさんだったり、そんでも、古いことは分かる、ってのが、隠しようのないおじさんなのだろうと、思っている。
おじさんたちと分かれた後、ボクはビジネスホテルの狭いトイレで、何もかもをゲロゲロ吐き出していたんだけれど、またそれも想い出になってしまったと考えると、やっぱりね、なんて納得しているんだ。そんで、帰って気が付いたのだけれど、携帯の充電器、そのゲロゲロホテルに忘れてしまっていて、「ああ、もうオヤジなんだから」なんて、思ったりしているのだ。

3件のコメント

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    次原かなハメ撮りS*X動画流出!-驚愕スクープ?-

    途切れなく続くあえぎ声、生の結合部までハッキリと・・・・・・

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    渡久米さん、こんにちは。
    もう就職されたのですか。早。
    ま、早いほうが良いと思います。ダラダラなると、ダラダラなって、ついつい「もう少し」なんて考えがちになるし…。
    期間工時代がムダと言えばムダな時間だったのかもしれませんから、もうすでにムダの時間を3年ほど過したってことだから、なんて思っても居ます。
    その間に、本当は何かを決めておくべきなんでしょうけれど…。
    正社員での就職だったのですか?

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    究極にムダをはぶいた秒単位の反復作業に追われる日々から抜け出して、のんびりと各駅停車で、ムダともいえる時間を過ごしながら、昔の思い出に浸りながらの旅…。
    俺は管理人さんと同じ週に満了しましたが、既に次のとこで働いてます。
    ああ、もう少しのんびりとムダな時間を過ごしたかった。仕事が見つかったことには、感謝しなければいけないのでしょうけど…。

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