真心サービスおじんタクシー

「今日は天気予報によると一時雨ということが言われていましたが、運転くれぐれも気を付けてくださいね。車間距離は十分に取って、あまりスピードは出しすぎないように、それから、お客様には愛想、真心サービスですよ。身だしなみはキチンと、言葉使いは丁寧に、お客様に決して不快な気持ちを与えないようにお願いしますね。鼻毛は伸びていないか。よだれは垂れていないか。いつも点検してくださいよ。お客様の前で決して入歯など外さないように。お願いしますよ。」
桂三枝師匠作の「真心サービスおじんタクシー」は、65歳から92歳までの“おじん”たちでシフトを組んだタクシー会社での噺だ。
この噺に出てくる“おじん”たちは、65歳から92歳まで。92歳という高齢の運転手は知らないけれど80歳代の方はいるし、70歳代なんてのは運転手としては脂の乗り切った年齢のような気もする。がしかし、地理を熟知し真心のサービス、安全な運転をしたとしても、加齢による視力聴力判断力なんてものの衰えからくる危険性は増してくる。
持病の薬を飲み忘れたりすることだってあるだろう。この噺の運転手のように、服用するのを忘れるといけないので朝全部飲んでおいた、なんてこともあるかもしれない。都合の悪いことは隠して就労するなんてことも起きるかもしれない。
*65歳に達した日以後1年以内に1回、その後75歳に達するまで3年以内ごとに1回
*75歳に達した日以後1年以内に1回、その後1年以内ごとに1回
という運転者適性診断を受診しなければならないとしても、3年は長い。「おじんタクシー」最高齢、92歳の田谷力一郎さんが年に1回の適性診断だけで安全に運行できるのか、なんて思うのだ。やっぱりいくら脂の乗り切った人たちとはいえ、凶器にもなる車を運転するのだからどこかで制限を設けないといけないのではないかと思うのだ。
タクシー業界というのは雇用のセーフティネットとなっている。リーマンショックの時、製造業が派遣切りや雇止めをする中、正社員として雇用を増やしたことも記憶に新しい。このボクも救われた。そして高齢者が必要とされている数少ない業界でもある。彼らのほとんどが(ボクが知っている“彼ら”なのだけれど)「必要とされているから働く」なんて使命感ではなく、あるいは「働きたいから」という労働意欲からでもなく、ただただ暮らしていけないからという理由だけで65歳を過ぎてもなお毎日、運を転(天)にまかせているのだ。
若い時のツケが回ってきているとしても、高齢者が安心して定年を迎えられない世の中のほうが変だと思う。“おじん”になっても労働して税金をおさめている人たちの収入よりも、生活保護費のほうが高いということも変だと思う。いつまでたっても老後が来ない国に安心して住めるはずがないのだ。
落語だけの笑い話ではなくて、もうすでにタクシー業界は「おじんタクシー」化している。この国の産業界全体が「おじん」化する。高齢者の雇用を促進するなんて聞こえはいいのだけれど、現状はタクシー業界のように暮らしに困って働いているという人のほうが多い。年金問題と雇用問題をどこかですり替えようとしている。そしてその代償として国民を危険に晒しているということなのだ。社会保障の不備がおじんタクシーというシステムを、危険を制限しないシステムをつくりだしているのだ。
さくら2012年

3件のコメント

  • blank

    >50歳名古屋さん
    どうも。この写真の日はちょうど雨で、少し風も強くて、「ああ、桜も散るなあ」なんて、朝早くから起きて向山公園まで行きました。
    やっぱり「さまざまのこと思ひ出す桜かな」なのかなあ。今年の思い出も、また想い出になって思い出すのでしょうね。
    >さといもさんへ
    免許証もですけれど、やっぱり車ありきの社会自体を変える必要もあるのだろうと思ったりもします。
    京都の事故なんてのを考えると、とってもそう思いますけれど…。

  • blank

    自営を含むタクシー業界に定年を設けようとの話が以前あったような気がしますが一定の年齢で自動的に資格を失うような仕組みが本当に正しいかというと少々疑問に感じます。
    ただ病気に起因する事故が少なからず起きてる以上運転免許全体のあり方をもっと厳格にするべきなのかもしれません。

  • blank

    桜、散ってしまいましたね。
    今年は岡崎城の夜桜を子供たちと一緒に見に行きました。16年前アメリカへ出発の直前に家内とお腹の子供と3人で行った場所です。屋台が立ち並ぶ夜桜見物は、今の日本では考えられないほど元気ににぎわっていました。この風景を子供たちに見せたくて。でも家内は今年病を得てしまい、一緒に行くことができませんでした。大きくなった子供たちにうれしさ半分悲しさ半分です。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA