タクシーはサービス業かという論争について

タクシーはサービス業か、という論争があります。

不毛な論争、とまでは言いません。しかし、そのような職業分類を持ち出してどうするんだろう、と思っています。

タクシー運転手が「サービス業ではない」と言い出すきっかけがあります。

  1. 利用者とのトラブル
  2. 利用者からのハラスメント
  3. 利用者からの過度な要求

このようなトラブルがあり、その結果「サービス業じゃないのでそこまでやらない」「運送業なのでA地点からB地点まで送るだけだ」「過剰サービス反対」と、運転手が声を上げることになります。

この終わりなき「タクシーはサービス業か」ということについて少し考えてみました。

(違った視点、労働とその価値や賃金という側面、についてはこちらで考えています↓)

サービス業としてのタクシーについてタクシーはサービス業なのか、という議論が定期的に起こります。 というのも、タクシー事業が産業上の分類で「旅客運送業」になっていて、さらに道路運送法、旅客自動車運送事業運輸規…
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サービス業としてのタクシーについて

タクシーの職業分類と産業分類

日本標準職業分類1では

  • 大分類 I- 輸送・機械運転従事者
    • 中分類 61- 自動車運転従事者
      • 612 乗用自動車運転者

つまり「乗用自動車運転者」という職業に分類されています。

また、日本標準産業分類2では

  • 大分類 H 運輸業、郵便業
    • 中分類 43 道路旅客運送業
      • 432 一般乗用乗用旅客自動車運送業
        • 4321 一般乗用旅客自動車運送業

ここに、私たちがよく目にする「一般乗用旅客自動車運送業」が登場します。つまり「乗車定員10人以下の自動車を貸切って有償で旅客の運送を行う事業所をいう。事例 ハイヤー業;タクシー業;福祉タクシー業」と概説されいる通りです。

日本標準産業分類(平成25年10月改定)一覧表

日本標準職業分類(平成21年12月統計基準設定) 分類項目名 大分類 I一輸送 •機械運転從事者
総務省|統計基準等|日本標準産業分類

一般乗用旅客自動車運送業

さて、この「一般乗用旅客自動車運送業」ですが、道路運送法や自動車運送事業法、旅客自動車運送事業法などでも「事業」や「事業者」として法律の対象者として登場します。

そして、この産業分類や法律の旅客自動車運送業をもって「タクシー運転手はサービス業ではなく運送業だ」という人もいるようです。

分からないこともありません。なぜならば、道路運送法などの法に依るとタクシー運転手は、

  1. 旅客自動車運送業という産業事業者に雇用されて
  2. 乗用定員10人以下の自動車を貸し切って有償で旅客の運送を行うことを専らの仕事とする人

と定義され「運送を行うことを専らの仕事とする人」となっているからです。

産業分類と「サービス精神」は別物である

タクシー運転手は産業分類上「運送業」に定義されますが、だからといってサービス業の側面を無視していいわけではありません。

他業界に見る接客のあり方

例えば、銀行や保険会社などの「金融業」はどうでしょうか。彼らが「サービス業ではないから顧客満足(CS)は不要だ」として、無愛想に接客することはありません。むしろ、非常に丁寧な対応を徹底しています。スーパーなどの小売店でも同様です。「販売員だから客の態度はどうでもいい」と考える店員はいません。

専門職であっても求められる「接客の質」

もし、どの業界であっても無口で雑な接客をしていれば、現代ではすぐに批判の対象(炎上)となるでしょう。職種の分類にかかわらず、対人業務である以上、適切な接客態度は不可欠なのです。

産業分類上の便法

この日本標準職業分類では、介護職員や料理人、ビル管理人は「サービス職業従事者」となっていますが、これら職業のほうがサービス業とするには違和感があります。

このように、この分類だけで自分たちの職業についてカテゴライズすることに問題がありそうです。

そのことを、水谷謙治氏は「分類困難な残余部門とされている」3職業が「サービス業とされている」からだと説明しています。

上記の大分類では, 〔L〕のサーどス業だけがサーピスを提供しているのではな〈,他の産 業もサービスを提供する業種とみなされている。そして〔 L〕サービス業は, 「個人または事 業所に対してサーピスを提供する他の大分類に分類されない事業所」とされている。つまり, 運輸・通信・金融・保険・商業などに分類できなかった残りが,一括して〔 L〕サービス業とされているわけである

さらに同論文では

官庁統計類や多くの著作では,大分類 G~Nのいわゆる第 三次産業の全体が広義のサービス産業とされ, 〔L]サーピス業は狭義のサーピス産業とされ ている。産業分類上の便法だとしても,狭義のサービス業はその固有な独自性によって規定さ れるのではなく,分類困難な残余部門とされているのである。

と説明しています。

「第三次産業全体が広義のサービス産業」と考えるほうが、サービス業というものについて理解しやすいように思います。そうすれば、銀行やデパートでの接客はサービス業ではないのか、という疑問も解決できるのではないのでしょうか。

ここでボクが言いたいことはタクシー運転手の「旅客自動車運送業」も、産業を分類するための便法であって、広義のサービス産業になる、ということです。

日本標準職業分類分類項目名 サービス職業従事者

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サービス労働とはなにか

「サービス」というと「無償」とか「無料」「無形」なんて言葉を連想するのではないでしょうか?だから「運送業だ」という形を求めて転換をするのかもしれません。

「労働者は紡いだのであり、生産物は紡がれたものである」(マルクス)

という生産的労働の対象物がないことにボクたち自身が戸惑っているようにも感じます。

というのも、タクシー運転手が利用者をA地点からB地点へ運送しても生産物として形に残るものは発生しません。「紡がれたもの」が存在しないのです。

「サービスとは,物を介することなく― あるいは,物を介するにしてもあくまで補 助材料として― ,直接に人が人に対して働きかける活動である」(板木雅彦「サービスと生産的労働の理論(上)」p.13 )5

あるいは、

「財には財貨(gods)とサービス(services)の 2種類がある。財貨とはリンゴぞ靴のような有形の財であり,サービスとは理髪のような無形の財である」(東洋経済『経済学大辞典』 I, p.167,大田誠〉

そのほかにも「労働という形で,人間の発揮する 機能だけが売買取引の対象になる。このとき,労働はサービスである」(『サービス化社会とサ ービス市場の基本構造』,大蔵省委託研究「井原哲夫チーム報告書」, p.35~36)という言説の通り、タクシー運転手と利用者の売買取引は、利用者の移動という「無形の財」であり運転するという「運転手の発揮する機能」の売買取引とすると、それは「サービス業」と言えるのではないのだろうか?

サービスの特性

もう少し考えてみたいと思います。

Wikipediaでは「サービスの特性」として次の5項目をあげています。
サービス – Wikipedia

  1. 同時性
    売り買いした後にモノが残らず、生産と同時に消費されていく。しかしながら、サービス労働の対象としての人に物質化されるのではないかとの異論もある。
  2. 不可分性
    生産と消費を切り離すことは不可能である。
  3. 不均質性/変動性
    品質は一定ではない。
  4. 無形性/非有形性
    触ることができない、はっきりとした形がないため、商品を購入前に見たり試したりすることが不可能。
  5. 消滅性
    形のないものゆえ、在庫にすることが不可能である。

この特性はまさしくタクシーそのものです。

タクシー産業の特性 – 道中の点検

エンタメ性

話が脇道にそれますが、SNSで「タクシー運転手とエンタメ性」を訴求する人がいます。

サービス業という第三次産業を考えと、例えばエンターテインメント産業は(CDやDVDなどを除き)上記5要素と一致します。ということならばタクシー運転手と共通する部分があるのではないか、そう考えることは、それほど奇妙で奇抜なことでもないように思います。

タクシーはサービス業である

これまで考えてきたように、タクシーをサービス業から排除することのほうが困難になります。

さらにはMaaSなどの移動サービス(や概念)の進化においてタクシーも移動サービス業と考えるほうが一般的になっているように感じます。そしてそのほうが合理的ではないですか?売っているものは「移動」という無形/非有形な財であって、一体何をボクたちは売っているんでしょうか?

だからこそ「エンタメ性」という発想も生まれてきました。

そういった問題以前に、人を相手としている仕事なので「まずは利用者」ということではないのでしょうか。

小宮路雅博氏は「サービスの諸特性とサービス取引の諸課題 成城・経済研究 第187号 (2010年2月)」6で次のように論じています。

現代社会において人々は,日常様々な「対価を伴う直接の取引対象としてのサービス」を購入して生活を送っている。例えば,以下の場合には,この種のサービスを購入して消費していることになる。

 

交通・移動。例:電車・バス・飛行機に乗る。タクシーに乗る。レンタカーを借りる。有料道路を利用する

利用者はサービスを買っている、そう考えているはずです。それに対して運転手が「旅客自動車運送業」だと言っているのです。この齟齬こそ、タクシーハラスメント(タクハラ)が問題化している原因なのかもしれません。

そして公共交通として

サービス業か運送業かという前に、ボクたちは公共交通の一員として人々の移動を介助しています。

道路交通法の第一条7

道路運送の利用者の利益の保護及びその利便の増進を図るとともに、道路運送の総合的な発達を図り、もつて公共の福祉を増進することを目的とする

とボクたちの労働の目的を明示しています。

  • 利用者の利益の保護及びその利便の増進を図るとともに
  • 道路運送の総合的な発達を図り
  • もって公共の福祉の増進すること

が最終的な任務なのです。ですから社会の公器と言われています。ここが全てなのです。

そしてそれは広義でも狭義でもサービス業ではないのでしょうか?

ただ単に輸送するだけならば、公共でなくても良いのです。ただ単に利用者と運転手との関係性だけならば規制されなくても良いのです。

「移動で人を幸せに」ボクたちが売っているのは「幸せ」なのです。

そう考えると、やはりサービス業で、映画や音楽と通底するエンターテイメントの世界かもしれません。そうボクも考えているのです。

「安全・安心」の先にある、タクシーの品質向上を目指して

タクシーがサービス業かどうかを議論する前に、まず忘れてはならないのは、お客様からいただく運賃が私たちの賃金の源泉であるという事実です。

「運賃は移動の対価だ」と割り切る考えもありますが、お客様の視点に立てば、そのサービス品質に大きな不安を感じているかもしれません。

品質のバラつきをどう補うか

タクシーには新車もあれば、走行距離が40万キロを超える車両もあります。また、運転の丁寧さも人によって異なります。

これほど「品質の不均質」があるにもかかわらず、運賃は一律です。このハード面やスキルの差を埋めるものこそが、接客などの「サービス」ではないでしょうか。

お客様の支持なくして業界の存続はない

もしお客様からの支持を失えば、タクシーという存在自体が不要になり、他の移動手段に取って代わられてしまいます。

対立の原因は、運転手側が「自分の視点」でしか物事を考えていないことにあります。

安全・安心は前提条件です。その上に「プラスアルファ」の付加価値を積み上げること。お客様があってこその業界であることを、今一度再認識すべきです。

  1. 総務省|統計基準等|日本標準職業分類(平成21年12月統計基準設定)
  2. 総務省|統計基準等|日本標準産業分類(平成25年10月改定)(平成26年4月1日施行)-目次
  3. 水谷謙治「現在の『サービス』に関する基礎的・理論的考察」p.89
    現代の「サービス」に関する 基礎的・理論的考察(上〉https://rikkyo.repo.nii.ac.jp › action=repository_uri
     
  4. 日本標準職業分類  総務省|統計基準等|日本標準職業分類(平成21年12月統計基準設定) 分類項目名
  5. 板木雅彦「サービスと生産的労働の理論(上)」p.13 
    サービスと生産的労働の理論(上) – 立命館大学https://www.ritsumei.ac.jp › journal › 18-2_itaki
  6. http://www.seijo.ac.jp/pdf/faeco/kenkyu/187/187-komiyaji.pdf
  7. 道路運送法 | e-Gov法令検索

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