タクシーの健康起因事故について考えたこと

タクシーの交通事故件数が減少する中、健康起因事故の構成比は上昇傾向にあります。先日の首都高速湾岸線西行き多摩川トンネル内事故でも、乗務員の健康状態の急変が原因ではないかと言われています。今回は、その健康起因事故について考えてみます。

事故件数

次のグラフは、事業用自動車健康起因事故対策協議会(以下「対策協議会』)の資料1をもとに作成したタクシー事業の健康起因事故件数と死傷者数のグラフです。

タクシー事業の健康起因事故と死亡事故件数

タクシーの事故件数は2013年の17799件から2022年の7948件と、大幅に減少しています。ところが、健康に起因する事故は減ることなく年間40件〜50件程度起きています。また、死傷者率が非常に高いことも特徴です。

次の図は、事業用自動車全体(バス、トラック、タクシー)の「健康起因により死亡した運転者の疾病別内訳」です。

健康起因により死亡した運転者の疾病別内訳

圧倒的に心臓疾患が多いことが分かります。

国交省による対策

健康起因事故を防ぐために、国土交通省でも「自動車運送事業者における心臓疾患・大血管疾患対策ガイドライン 2」を作成、周知させているところです。

例えば、タクシー事業者に対して、次のような予防と対策を促しています。

  • 生活習慣改善を促す→全員
  • 定期健康診断 結果による事後措置→要受診者
  • スクリーニング検査 の受診→リスク者
  • 「疾患を見逃さないために注 意すべき症状」を把握→症状あり

心臓疾患、大血管疾患に関連する 健康起因事故発生のメカニズムとその予防概略図
心臓疾患、大血管疾患に関連する 健康起因事故発生のメカニズムとその予防

生活改善

また、「心臓疾患、大血管疾患の発症を予防するためには生活習慣の改善が重要」ということから、次の項目の改善を乗務員に対して促すよう指導しています。

  • 禁煙
  • 腹八分
  • 塩分を控える
  • 野菜を食べる
  • 過度の飲酒を控える
  • 体重管理
  • 適度な運動

生活習慣の改善のポイント
生活習慣の改善のポイント

問題点

このような取り組みは必要で重要なことです。ところが、通常の定期健康診断からスクリーニングまで持ち込めるのでしょうか?さらに、再検査時の費用が乗務員負担になっている事業所もあります。それが原因で、再検査の時期が遅れたり、最悪受診しないまま事故に至る可能性も捨てきれません。

加えて、休むことを嫌う乗務員も多いのです。さらに、症状を隠し、自発的な受診を避ける高齢者も多いのです。これは、賃金制度や雇用制度の課題でもあります。

このような背景を考えると、

  • 定期健康診断は人間ドック、同レベルの検査を行う
  • 脳ドックを行う
  • 再検査(スクリーニング)費用まで会社が負担する
  • 検査日は有給プラス手当を支給する
  • 安心して休業できる仕組み

せめて、これぐらいのことは必要ではないでしょうか。

安全な装備を

また、国土交通省は、健康起因事故防止のため、次のような取り組みを行なっています。

健康起因事故発生状況と健康起因事故 防止のための取組について

  1. 自動車運送事業等における安全対策の推進
    • 過労運転防止に資する機器等や先進安全自動車(ASV)の普及を促進し、事故の削減を図るため、自動車運送事業者に 対して対象機器の補助を行う。
  2. ICTの活用による運行管理業務の高度化
    • 対面での実施が原則であった点呼業務について、確実性を高めることで安全性を向上させるとともに労働生産性の向上を図るため、 ICTを活用可能とする制度の策定の検討に令和3年から着手。
  3. ドライバー異常時対応システムについて
    • ドライバーが安全に運転できない状態に陥った場合に異常を検知し車両を自動的に停止させる「ドライバー
      異常時対応システム」の開発・実用化・普及を促進

ドライバー異常時対応システム
ドライバー異常時対応システム3

高齢者だけが健康起因事故を惹起するわけではありません。「安全はすべてにおいて優先する」のなら、安全に対してお金を使うことです。国からの補助もあります。

タクシーの健康起因事故は、健康だけを気を使えば減るものでもありません。結局、安全装備、教育、運行管理、そして生活改善できるような勤務シフトや賃金制度への転換や改善も必要不可欠なのです。

事業用自動車の交通事故統計(令和4年版)

  1. 健康起因事故発生状況と取組について
  2. 自動車運送事業者における心臓疾患・大血管疾患対策ガイドライン
  3. 健康起因事故発生状況と健康起因事故 防止のための取組について

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