倒産、なぜ地方のタクシー会社の倒産が続いているのか

豊橋市のキングタクシーと新城市の新城交通(ツジムラタクシー)の廃業については前回キングタクシー廃業 について考えてみました。今回は地方のタクシー会社の倒産についてもう少し細かく私見を述べます。

キングタクシー廃業豊橋市のキングタクシー(保有台数29台)が、この15日をもって廃業することになった。これは、新城市の新城交通(ツジムラタクシー)に次いで、東三河南部交通圏では2社目の廃業になっ…
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キングタクシー廃業

コロナ禍での営業収入の激減と支援

雇用調整助成金での乗務員の雇用は守れたかもしれません。しかし、会社には持続化給付金200万円しかまとまった金額の支援がありませんでした。これがタクシー会社の倒産、廃業の理由です。

タクシー事業における支援メニュー(概要)

融資の優遇や各自治体独自の支援策、設備投資への補助金などはありました。しかし、飲食店に支給された1店舗1日4万円や6万円の支援策はありませんでした。タクシー1台あたり、同規模の支援があれば倒産しなかったはずです。なぜならば、タクシー1台が1店舗だからです。

設備の交換、新設費用

  1. 配車システムの交換時期、あるいは、配車システムを導入しなければ経営(戦略)のうえで難しい時期だった。例えばキングタクシーは、おそらく2010年あたりにGPS-AVMシステム(新潟通信機制)を導入したので、その交換時期で、その交換費用数千万円(推測なんですが二千万円〜三千万円)が必要だったはずです
  2. 同じ時期に投入したカーナビの更新費用
  3. 支払い方法の多様化にともなう決済機の導入費用。その通信に係る設備投資
  4. 事前確定運賃、スマホ配車などに対応するための設備
  5. 決済手数料

決済手数料は、現金商売だと不必要な経費でした。それどころか、現金だけの場合はチップという特典が付いていました。

たかが3%〜5%の手数料とは言え、年間だとかなりの金額になります。そしてその手数料も、決済だけではなく、配車手数料など年々増加する一方でした。

クラウンコンフォートからジャパンタクシーへの車両代替

実はこのことも地方の零細タクシー事業者には問題化しています。コロナ禍で新車買い控えのため、中古車市場で良質なタクシー車両が出回らず、代替が新車一択になりました。それがコストを圧迫する要因になっていると思います。(だいたい豊橋市でジャパン導入率なんて20%程度です)

ジャパンタクシーの自治体からの導入支援があるにしても、そもそもこれまでのコンフォートよりも高額です。しかし、中古車両のない状況では、とにかく新車を買うしかありません。

利益構造 人件費

キングタクシーが29台で乗務員数30名に非現業10名は、とても非効率です。

車両1台で、乗務員1人と非現業0.3人、1.3人分の賃金+経費を稼がなければなりません。そうなると労働集約型で営業費用の70%以上が人件費のタクシー業界では、ほとんど利益がでません。新城交通の場合、所有台数8台に10名です。人手不足と、さらに車両数と乗務員、管理者などの構成比が歪になったのも原因です。

タクシー会社は倒産しにくいと言われていますが、この2社のケースは労務倒産です。

タクシー事業の現状について 国土交通省

タクシー事業の現状について 国土交通省

最低賃金

営業収入が伸び悩んでいるのに、最低賃金が毎年増え、それがそのまま費用増になっています。出来高制歩合給であっても最低賃金を支払います。その最賃補償が増え続けていると言うことです。

地方の所有台数10台規模の事業者には不向きなタクシーの未来

最後に、これが一番の問題なんですが、ボクの実家近くにあるタクシー会社は確か3台を経営者の家族と従業員1名の4人ぐらいで運営していました。タクシーには無線とメーターだけ(だと思います)なので、車両、燃料、人件費だけ、という、分かりやすい利益構造、費用構造でよかったはずです。

2000年代になって、配車システムがGPSを利用したものになりました。スマホ配車やクレジット決済、そしてあの「11項目」そてに9項目がプラスされた「20項目」という、「タクシー業界において今後新たに取り組む事項」が制定されました。

設備投資の増加

世の中は、そしてタクシー業界も、IT・ICT・IoT、そしてDX……
もう、無線にメーターだけでは営業するのが難しくなりました。それが新城交通(ツジムラタクシー)です。カーナビもなく、音声無線だけで営業をするスタイルは、ボクが入職した頃には残っていました。しかし今では見ることがなくなりました。都市部では、それどころか、DiDiやGOなんてのを併用しています。車内はタブレット、ナビが並ぶコックピット化しています。

タクシーを営業するのにお金がかかる時代になったということです。新車で買うしかないジャパンタクシーにいろいろ架装して……。コンビニのフランチャイズ契約料より高くなる。おまけに、車検、三検、メーター検査、ボンベ検査…、人も車も検査だらけです。

投資対効果

参入制限があり、増車も出来ない、という業界で、特に地方で、これだけの経費をかけて誰が事業を始めるのでしょうか?赤字覚悟で公共交通空白地問題解決のために、なんて奇特な人はいますか?

そうなると、大手がやるか(今回の新城市も名鉄タクシーHD)、自家用有償でしか、地方の足は守れないのです。大手事業者の内部補助なしでは経営が難しくなっています。あるいは、国や自治体の補助で生き残るしか道はないのです。

コロナ不況はまだ続きます。零細タクシー会社の倒産、廃業がこの4月から続出するのではないか、そう思っています。

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