タクシー運転手の残業代 – 歩合給と割増賃金

タクシー運転手の残業代あるの?という質問が(たまに)あります。答えは「あるに決まってる」です。

ところが、出来高制歩合給という賃金制度が、残業代、深夜手当、休日労働、それら割増賃金を曖昧にし分かりにくいものにしています。だから「残業代があるの?」という話になります。今回は、そのタクシー運転手の残業代について考えてみます。

残業代の計算1

単純な賃金計算

次の条件での残業代を考えてみます。(Aさんのある月の残業代)

  • 勤務シフトの月間労働時間=170時間
  • 実勤務時間=200時間、残業=30時間
  • 歩率(賃率)=60%
  • 営収=100万円

1,000,000×60%=600,000円

600,000÷200h=3,000円(時間当たりの賃金)

3,000円×0.25=750円(残業1時間あたりの割増賃金)

この場合、

750円×30h=22,500円の割増賃金が加算され622,500円が支払わなければなりません。

ところが、

600,000-22,500=577,500円を歩合給とし、22,500円を時間外手当とする振り分けを行う会社もあります。その結果、

577,500円+22,500円=600,000円

そして、残業がない場合も

600,000円+0円=600,000円

残業0でも、30時間やっても、さらに50時間やろうが、賃金差がありません。

この例のように、残業の有無に関わらず、60%の歩率で終わり、です。実際はもっと複雑になっているので、説明できない管理者もいるぐらいです。

複雑な賃金算出

例えば、2021年3月に和解した国際自動車の裁判でも、よくわからない賃金算出方法が問題になりました。(図1)

賃金計算表例とタクシー運転手の残業代
図1.タクシー会社の歩合給での割増賃金と支給額(裁判の内容から推測して作成しました)

このように、残業時間に無関係に売上に歩率を乗じた金額が支給される結果になります。この図では277800円が賃金です。そして、給与明細上は残業代を支払ったようになっています。(振り分けが行われています)

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国際自動車裁判で考える賃金の複雑さ

残業代計算2

現在は、デジタルタコグラフによって時間、乗降場所がわかります。よって、どの時間のどの売上が時間外のものなのかが判別でき、次のような残業代の計算も可能です。

Aさんの100万円の売上のうち、残業時間での売上が30万円あった場合

1,000,000-300,000=700,000円

1,000,000×60%=600,000円

300,000×25%=75,000円

合計675,000円になります。この67万5,000円がAさんの賃金総額です。そして、この計算法で支払われないタクシー運転手の残業代問題は輪郭を曖昧にしながら解決できないと思います。

振り分け

残業代だけではなく、割増賃金や通勤手当も歩合給に振り分けて支給します。

図2の賃金構成を元に、60%の歩率、100万円の振り分けを行うと、例えば

基本給150,000円

通勤手当5,000円

時間外22,500円

深夜手当7,500円

歩合給415,000円

総支給600,000円

つまり、60万円は60万円なのです。さすがに、精勤手当、役職、無事故手当は別途支払われる思います。

タクシー運転手の賃金構成
図2.タクシー運転手の賃金構成

複雑化した理由

このようになった理由は、というと、タクシーの働き方と出来高制歩合給に原因を求められます。

タクシー運転手は、出勤して出庫してしまえば、誰にも管理されず、場所も時間も方法も自由です。それが魅力でもあります。しかし、その自由な営業方法は、逆に言えばサボれる、悪いこともできる、ということです。さらに、サボったり悪事がバレにくいという密室です。

反対に、経営者は、サボらないで稼いでくる方法と悪いことができない仕組みに知恵を絞ってきました。このタクシー事業の複雑なルールを「知恵の結晶」と喩えられます。

タクシー運転手の賃金と性悪説ルール

タクシーのルールの多くが、この「サボる、悪いことをする」という性悪説を元に作られました。度々問題視される運転手負担もそのひとつです。

例えば、障がい者割引です。障がい者でもない人に割引を適用したようにして差額をポケットに入れる…。乗り逃げ運賃の運転手負担(自腹)も同じです。「乗り逃げされた」と嘘をつくとか……。神風タクシーではなく、悪魔タクシーがいたからです。

残業代も同じです。残業時間になったとたんご飯を食べる。人のいないところで寝てる。車の掃除に2時間も3時間もかける。出庫しないでおしゃべりしてる。休憩時間が長い……。

このような背景があるからこそ、タクシー運転手の賃金が歩合給から離れられず、残業代を曖昧にしてきた(支払わない)理由でもあります。

しかし現在は、車内カメラを装備しています。ドライブレコーダーも精密です。GPSで行動を把握できます。

性悪説ルール、それはもう時代遅れではないでしょうか?タクシー運転手の残業代、いえ、賃金制度とルールを分かりやすいものにしないと、いつまで経っても怪しい業界のままではないでしょうか。

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第6章 賃金

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