今昔物語集 巻十九第二話 参河国大江定基出家話:現代語訳

風祭りの猪の生贄

而間、其国ニシテ、国ノ者共風祭ト云事ヲシテ、猪ヲ捕、生ケ乍ラ下シテケルヲ見テ、弥ヨ道心ヲ発シテ、「速二此ノ国ヲ去ナム」ト思フ心付テ、

現代語訳

そうこうしているうちに、三河の国では国の人々が「風祭り」という行事を行い、捕らえた猪を生きたまま捌いて供え物にしていました。これを見た守(大江定基)は、いっそう仏道への志(道心)を強め、「一刻も早くこの国を去ろう」と心に決めるのでした。

雉を殺す

赤雉ヲ生ケ乍ラ捕テ人ノ持来レルヲ、守ノ云ク、「去来、此ノ鳥ノ生乍ラ造テ食ハム。今少シ味ヤ美キト試ム」ト。守ノ心二入ラムト思ヒタル、 物モ不思ニヌ郎等共、此ヲ聞テ云ク、「極ク侍リケム。何デカ味ヒ増ラヌ様ハ有ム」ト勧メ云ケレべ、物ノ心少知タル者共ハ、「奇異シキ態ヲモ為ムズルカナ」ト思ヒケリ。

現代語訳

そんな折、生きたままの赤雉(あかきじ)を捕らえて持ってきた者がいました。守は(人々の残酷な心を試そうとして、あえて)こう言いました。 「さあ、この鳥を生きたまま料理して食べようではないか。その方が少しは味が良くなるか試してみたいのだ」

守の機嫌を取ろうと考え、何事も深く考えない家来たちは、これを聞いて言いました。 「それは素晴らしい考えでございます。「きっと美味しいはずです」 と、積極的に勧めました。しかし、物事の道理を少しでもわきまえている者たちは、「なんと恐ろしい(異様な)ことをなさるのか」と心の中で密かに思うのでした。

血の涙

而ルニ、雉ヲ生乍ラ持 来テ揃ニスルニ、暫クハフタフタト為ルヲ引カヘテ、只揃ニ揃レバ、鳥目ヨリ血ノ涙ヲ垂テ、目ヲシバ叩キテ彼レ此レガ貞ヲ見ルヲ見テ、不堪シテ立去ク者モ有ケリ、「烏此ク泣ヨ」トテ咲テ情無気ニ揃ル者モ有リケリ。

揃リ畢テツレベ下セケルニ、刀ニ随テ血ツフツフト出来ケルヲ、刀ヲ打巾ヒ打巾ヒ下シケレバ、奇異ク難堪気ナル音ヲ出シテ死ニ畢ニケレバ、下シ畢テ、煎り焼ナドシテ試セケレベ、「事ノ外ニ侍レリケリ。死タルヲ下シテ煎リ焼タルニハ、事ノ外ニ増タリ」ト云ヒケルヲ、守ツクヅクト見聞居テ、目ヨリ天ナル涙ヲ落シ放テ泣ケルニ

現代語訳

また、生きた雉を連れてきて料理のまな板に載せると、しばらくの間は羽をバタバタとさせて暴れました。しかし、無理やり押さえつけて引き延ばされ、いよいよ包丁が入れられました。すると、鳥は目から血の涙を流し、まばたきをしながら、代わる代わる自分を囲む者たちの顔をじっと見つめました。その様子を見て、正視できずに席を立つ者もいれば、「おい、この鳥が泣いているぞ」と言って笑い、情け容赦なく捌き続ける者もいました。

生きたまま切り刻んでいくと、刀の動きに従って血がプツプツと出てきました。そのたびに血を拭いながら捌いていくと、鳥は世にも恐ろしい、耐え難い声を上げてついに死んでしまいました。 料理し終えて、煎ったり焼いたりして試食させてみると、家来たちは「これは格別でございます。死んだ鳥を捌いて焼いたものより、格段に味が勝っております」と言い合いました。

守(大江定基)はその様子をじっと見聞きして座っていました。しかしやがて大粒の涙をぽろぽろとこぼし泣いてしまいました。

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小坂井町誌 – 国立国会図書館デジタルコレクション.
今昔物語集 , 巻第19 · University of Tsukuba Digital Collections Tulips-DC · 筑波大学附属図書館.

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