タクシー運転手の現状

2020年、2021年の賃金、労働時間のデータについては、コロナ禍の休業により大幅に落ち込んでいて、今後の目安になりにくいと考えています。

コロナ禍前の2019年までは、賃金は微増を続けていて、タクシー業界は人手不足を背景に稼働台当たりの営収(日車)は増加していました。

一般社団法人 全国ハイヤー・タクシー連合会発表の「令和元年タクシー運転者の賃金・労働時間の現況のまとめ 」には、以下のように掲載されています。

令和元年のタクシー運転者(男)の年間賃金推計額は、前年に比べ3.5%、12万600円増の360万3,800円であった。
一方、全産業男性労働者の年間推計額は、前年比0.5%、2万5,200円増の560万9,700円となった。
この結果、タクシー運転者(男)と全産業男性労働者との格差は200万5,900円となり、前年の210万1,300円から9万5,400円格差が縮まった。
また、令和元年6月度のタクシー運転者(男)の労働時間は195時間で、昨年に比べて1時間増加した。

実際、東三河南部交通圏においても、供給不足を感じていたし、「リーマン後最高の営収」という声も多く聞こえました。

UDタクシーの導入と、2020東京オリンピック・パラリンピックを前年比ひかえ、その追い風が業界に推進力を与えていた、そんな2019年でした。

その「令和元年タクシー運転者の賃金・労働時間の現況のまとめ 」をグラフ化したものが下の図です。

2019年 都道府県別タクシー運転者・全産業 賃金労働時間グラフ

このグラフをもとにすると、東京、静岡、神奈川、大阪では年間400万円を超えていますが、47都道府県中25の道と県が300万円を割っています。最下位の徳島県は253万円です。全国平均はタクシーが360万円、全産業が560万円、その差は200万円です。

ただ、労働者の平均年齢がタクシー60.0歳、全産業43.8歳という高齢化問題が、賃金を押し下げているということもあります。どういうことかというと、年金を受給しながらタクシー運転手として勤務している人、定年後や定年間近に入職した人たち、「あまり稼がないで良い」という集団がいるからです。

もうすこし細かく、例えば年齢別にまとめてみると、違った平均値になると思います。

ただ、愛知県を見ると330万円、名古屋や周辺の都市部なら平均かもしれませんが、山間部や過疎地においては、この数字はトップクラスの賃金になります。月にして27万5千円、最低賃金よりも10万円高い数字は、そんなに悪くないものです。

コロナ禍にあった2020年の、同じく一般社団法人 全国ハイヤー・タクシー連合会発表の「令和2年タクシー運転者の賃金・労働時間の現況のまとめ 」によると、

令和2年のタクシー運転者の年間賃金推計額は、前年に比べ17.2%、57万9,600円減の299万6,200円であった。
一方、全産業労働者の年間推計額は、前年比2.7%、13万4,000円減の487万2,900円となった。
この結果、タクシー運転者と全産業労働者との格差は187万6,700円となり、前年の143万1,100円から44万5,600円格差が広まった。
また、令和2年6月度のタクシー運転者の労働時間は182時間で昨年に比べて11時間減少した。

「それぐらいですんだか」というのが、私の感想です。17.2%、57万9,600円の減少だけで済んだのは、雇用調整助成金があったからでしょう。

ただ、全産業が2.7%だけの減少ということは、それぐらいコロナ禍での移動量が減少したことと、歩合給なので、休業しても出勤しても賃金が減少するという実態だったからだろうと思います。

令和2年タクシー運転者の賃金・労働時間の現況のまとめ 」をグラフ化しました。ただ、連合会の発表している数値に疑問があるのですが、(石川県の500万円とか)そのままの数値を使用しました。

2020年 都道府県別タクシー運転者・全産業 賃金労働時間グラフ

石川県もなんですが、東京が300万円台になったのに驚いています。なんども連合会の表を見直したのですが、この通りなのでしょう。

下の図は「令和2年タクシー運転者の賃金・労働時間の現況のまとめ 」に掲載されている、昭和60年から令和2年までの賃金推移です。冒頭に述べたように、2019年までは右肩上がりでした。

アフターコロナについては、現状乗務員不足の事業者も多く、年末の繁忙期を迎え供給不足のようでもあります。ただ、コロナウイルス次第で、また非常事態宣言などが発令されると、供給過多になるのだろうと予想しています。

賃金については、供給不足で乗務員一人当たり(稼働台当たり)については、2019年並みになるのではないかと予想しています。

ただし、会社は売上2019年比80%程度だろうと考えています。地方においては、この数字よりも低くなり、苦しい状況が続くのではないかと予想すると、運賃改定や経費削減、特に車両部門ではなくて配車部門において外注化も進むのではないかと思います。

いろいろなこと、タクシーのDXが推進され、「100年に一度の技術とサービスの大革命」と言われる変化の時の到来(まあ、日本のタクシーの歴史が100年なんですが)ということは、間違いないと思います。

タクシー運転者(男性)と全産業男性労働者の年間給与推移グラフ

このような統計の裏には、タクシー業界の抱える問題のひとつ「高齢化」が隠れていて、真実を少しだけ歪曲して見せています。

前述したように、平均年齢60.0歳ということは、年金受給者を含む「あまり稼がなくていい」集団が賃金平均を下げている、ということもあります。

いや、がんばって働け、ということではなくて、地方でも、例えばここ東三河南部交通圏においても、月に100万円を超える営収の運転手もいて、そういう運転手は東京並みの賃金をもらっている、ということなんです。

前回の「タクシー産業の特性」、今回の「タクシー運転手の現状」で、タクシーのことが少し分かってもらえたと思います。

業界はタクシーだけではなく、コミュニティバスやデマンド交通など、より公共性のある事業も取り組んでいます。豊橋市内でも「愛のりくん」や、コミュニティバス「やまびこ号」「スマイル号」「柿の里バス」などをタクシー会社が運行しています。

また、新城市内においては、タクシー会社が運行管理する公共交通空白地自家用有償旅客運送も行っています。

「移動で人を幸せに」、どこかの会社のキャッチフレーズですが、利用者もですが、私たち運転手も「幸せ」になるタクシーを業界の中の人たちは願っているはずです。幸せが見つかるかもしれません。