「車いす対応タクシーで乗車拒否」について

車いす利用者を避ける、タクシーの乗車拒否がなくなりません。なくならない、というよりも、UDタクシーが普及するにつれて車いす利用者への乗車拒否も増えているではないでしょうか。

待望のUDタクシーの導入

平成23年に「移動等円滑化の促進に関する基本方針」が改正され「平成32年度までに福祉タクシー(UDタクシー含む)約28,000台とする」7整備目標が設定されました。

その6年後、平成29年(2017年)にトヨタ自動車のJPN TAXIが発売され、翌年2018年に豊橋市内にもJPN TAXが走り始め、3月には出発式が豊橋市役所でありました。

導入には(報道されている通り)県と市あわせて60万円の補助があったのです。そしてその補助申請には一台につき数名(3名程度)のユニバーサルドライバー研修受講が要件になっていました。

その頃(2017年秋)に、UDタクシーのことについてボクなりの(つまらない)「UDタクシー論」なんて記事を書いていて、なにか新しい時代の到来のように興奮していたことを思い出しています。

車いすのお客様もUDタクシーが増えることで、移動がそれまで以上に簡単になると期待していたに違いありません。

UDタクシー出発式

豊橋市のUDタクシー出発式には、車いすユーザーが出席し乗降車のデモンストレーションも行われました。(車椅子のまま乗降が可能に 東三河『初』豊橋市内タクシー3事業者:東日新聞)あの年の3月、慶祝ムードの中、UDタクシーの運用が始まったのです。

そういった慶祝ムードの出発式とは裏腹に、少しすると運転手からも、そして利用者からも「苦情」が寄せられるようになりました。運転手からは「扱いにくい」「時間がかかる」「欠陥車だ」などの車両に対しての苦情です。そして、お客様からは「乗車拒否」の声が届くようになりました。

車いす対応タクシーで乗車拒否 運転手が手順に不慣れ

車いすのまま乗れるユニバーサルデザイン(UD)タクシーを巡り、乗車を拒否されたと訴える車いす利用者が後を絶たない。国は事業者への行政処分などを通じ是正を急ぐが、乗車の手順に不慣れな運転手はなお多い。研修強化などの対応が求められる一方、専門家はタクシー側が対応しやすくなるような環境整備の必要性も指摘する。

乗務員にUDではない

そもそも、「研修強化」しなければならない、そのこと自体問題です。スロープの設置や車内での転回、シートベルトの装着など、「カン・コツ」が求められることも問題です。その乗降の難しさを「研修強化」で運転手に負担させようとします。それより、車両の設計の見直しをしたほうが早いのではないのでしょうか。

双方(お客様と運転手)とも使い勝手が悪いことが問題です。つまり、UDなんだけれど、ユーザビリティが欠如しているということです。

障害者団体でつくるNPO法人「DPI日本会議」の19年の調査によると、乗車を試みた計120件のうち無視や拒否で乗れなかった件数は、およそ4分の1の32件に上った。最終的に乗れた事例でも1台目で乗車できたのは半数のみ。素通りなどが続き5台目でやっと乗れた人もいた。

流しの場合のこの数字が意図的な乗車拒否という判定が困難です。判定も難しいので一概に多寡については言及できないと思います。しかし、待機場や配車センターでの乗車拒否は論外です。

タクシー乗場のUD化

環境整備で言えば、駅や病院などの待機場ではスロープをあらかじめ用意し、車載のものを使用しないで良いようにすることも必要です。道路も、タクシーに乗ることを前提としたバリアフリー化が望ましいのでしょう。せめてタクシー乗場では車いすの乗車拒否が起こらない設計をしてください。

ただ、この問題の本質は違う部分にあります。

「組み立てる時間を使って他の乗客を運べば、その分売り上げが増えると考える同僚もいる」と話す。

「組み立てる時間」=減収

要するに、時間=減収となってしまっていることが、この問題の解決を困難にしている根源なのです。時間=収入ならば「組み立てる時間」も収入になります。ところが運転者の労働の対価はメーターを入れてからの距離と時間に依存するので、メーターが入るまではタダ働きになります。

労働集約型産業(タクシー産業のような)では、企業の利益や成長や生産性を、労働者の数や労働力の優劣など、多くを労働力(それも労働者個人の責任)にすり替えることが多い。そして下手な鉄砲も数撃てば当たる的な人海戦術で成長をしてきた。

歩合給が業界をダメにするたったひとつの理由 – 道中の点検

UD化の悲劇

メーター性歩合給の悲劇

このメーター制による歩合給こそが、タクシー業界の成長を妨げる原因(要因と言ってもいい)になったのです。お客様からの苦情も、このメーター歩合給に由来するものが多くあります。今回の乗車拒否問題も「組み立てる時間」「乗降する時間」がかかるような「(研修を強化しなければならない)乗車手順」と「車両設計」を問題視しています。車いす利用者を乗車拒否したくなる車両設計ということです。

さらに、この記事には書いていませんが、障がい者割引が運転手負担になっている賃金制度にも問題があります。その1割引いた金額を運転手に負担する事業者もあって、それが車いすのお客様差別につながっています。

  • メーター制による歩合給
  • 障がい者割引の運転手負担

運転者を苦しめています。だから乗車拒否が起きるのです。

さらに、UDタクシーに乗るために「講習を受ける」、その講習への賃金も支払われているか疑問です。「1台につき60万円ものUDタクシー導入補助金を受給」していながらです。

  • 講習を受けなければならない
  • 1台60万円の導入補助を受けている

こうしたことが運転者の不満となっているという背景があります。

UDタクシー導入補助金のゆくえ

JPA TAXI発売、導入から4年が過ぎました。その間に、1台につき車いすのお客様を何人お乗せしたでしょうか。よくて十数名、平均すると、一桁程度ではないのでしょうか。その60万円を運転者のために使い、1乗車につき1,000円を上乗せするとか、講習費にするとか、そういった使い方はできなかったのでしょうか。

そういったお金の使い方をしなくて、たどり着いたのは「車いす乗降に割増金」です。

車いす乗降に割増金で指導 UDタクシー巡り運輸局: 日本経済新聞

車いす乗降割増という本末転倒

運転手に、ではなく、今度は乗客に割増金を付けたのです。つまり、車いす利用者の乗車拒否の問題を、利用者に押し付けたのです。

料金に加算される割増金は運転手の収入になりますが、これでは本末転倒です。車いす利用者と運転手の対立を煽ることになる方策です。運転手対策に割増金を利用者から徴収し、会社はなんの痛みもありません。車いす利用者の方から乗車拒否をさせる仕組みです。この姿勢こそ問題なのです。どうしていつも「負担」に行き着くのでしょうか。

  • 車いす乗降割増

これも歩合給制賃金の抱える問題に行き着きます。タクシー会社の賃金は各社違っていて、「知恵の結晶」と比喩される賃金制度によって左右されます。どれほど運転手負担があったとしても、歩率が高くなれば賃金が高くなるし、会社負担が増えれば歩率を低く抑える、あるいは同じように見せながら抑える、そんな知恵をしぼってきました。

平均営収が60万円として、歩率60%で運転手の歩合給は36万円です。59%に下げると、35万4千円になります。その差6千円。歩率を下げるだけで、運転手負担をなくすことも可能です。このような説明をされると「あるかないか分からない運転手負担のほうが得」と考えるも運転手も多いのです。

知恵の結晶という悲劇

他にもいろいろありますが、こういった手法が「知恵の結晶」となっています。(「タクシー運転手の賃金について – 道中の点検」に詳しい仕組みを書いています。)

この5つ、運転手とお客様に負担をかけながら、事業者はなにもしていない、それがこの問題の本質です。

車いす乗車拒否の本質

その論点のブレが、車いす利用者やトヨタ自動車、国やタクシー協会への不満へすり替わっているところもあります。確かに、セコイ会社、車両の設計が悪く使いにくい、施策にも不備があります。ですが、ボクたちももっと積極的にUDということを考えたほうが良いのではないでしょうか。さらに、タクシー事業の公共性や公器としての使命なんてものを考えなければならないと思っています。

いや、その前に、エッセンシャルワーカーという「やりがい搾取」が行われないように、ボクたちの賃金こそ、距離時間制にしなければならないのではありませんか?賃金は歩合給よりも固定給にちかいものが好ましいと思います。歩合給でのエッシェンシャルワーカーでは無理があります。

タクシー運転手の特性である「歩合給」からの脱却こそ必要です。タクシー業界の真の革命だと、ボクは考えています。歩合給がなくならない限り、車いす乗車拒否、乗車忌避はなくなりません。

UDタクシー出発式 豊橋市役所 この時車いすユーザーも来賓でいらしゃって、喜んでいたのを思い出します。まさか乗車拒否が起きるとは思ってもみなかったでしょう。

 

 

JPNタクシー都道府県別導入台数 台数割合

*とはいえ、まだまだ導入率が低いJPN TAXIです。(東京はJPN TAXI15,017台、全台数30,695台です。2位愛知県の10倍もの台数があるため外しています)グラフは東京交通新聞1月1日付の数字を使用して作成しました。

名古屋市版 トヨタJPNタクシー 車いす乗車ガイド。 ~車いすユーザー・タクシー事業者に知ってほしいこと~

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