最低賃金、なぜ地方のタクシー会社の倒産が続いているのか(3)
前回「倒産、なぜ地方のタクシー会社の倒産が続いているのか(2)」そして、前々回「労務倒産、なぜ地方のタクシー会社の倒産が続いているのか 」でも、最低賃金問題を取り上げましたが、私たち労働者は最低賃金が上がれば支給される賃金も上がり、喜ばしいことだと思ってしまいます。
でも、ほんとうに「喜ばしい」ことなんでしょうか?
この10月の最賃改定で愛知県は
- 927円から955円になり
- 1時間28円
- 1日224円(28円×8時間)
- 1か月4,480円(224円×20日)
賃金が上がることになります。
タクシー事業と最低賃金
多くのタクシー運転手は歩合給での賃金なのです。そのため、最低賃金は関係ないように考える人もいるかもしれません。運転手の中には、その歩合給での最低賃金割れの人もいます。
少し説明します。会社は賃金が出来高制歩合給だとしても、最低賃金に満たない場合は、保障しなければなりません。
例えば、次の場合
- 歩率50%
- 30万円の売り上げ
- 200時間の労働時間
賃金は以下のようになります。
- 300,000×50%=150,000円(歩合給)
- 200時間×900円=180,000円(最低賃金)
- 180,000-150,000=30,000円(補償給)
つまり、30,000円最賃割れしたと言うことです。
そういった最賃割れがこのコロナ禍での需要激減で地方の中小零細タクシー事業者の経営を悪化させ、倒産の危機や倒産の要因になっていると思います。
確かに労働集約型の歩合給だと、稼ぎが悪ければ支払賃金も悪くなる、のですが、売上0円でも、その日の労働時間(拘束時間)×最低賃金は支払わなければなりません。レアケースだと思うかもしれませんが、これがコロナ禍で多くなったのです。
ところが、今回の新型コロナ騒動、売上が2/3、1/2、20万円なんてことになると、出勤すればするほど、走れば走るほど、赤字になる。最低賃金で守られている乗務員には、底があるが、企業には倒産しかない。危機感のない人たち
ということなのです。
稼がなく良い人たち
最低賃金の上昇は、そのまま人件費という経費の増加になって経営を苦しくしているというのが、中小零細タクシー事業者の実態です。稼げば良いのですが、そもそもタクシー運転手の平均年齢が高く、年金受給者や「稼がなくても良い人」もいて、最低賃金で満足している人たちも多いので、なかなかその「稼ぐ」動機付けがない。「足切」と言われるノルマがあったとしても、最低賃金は払わなければならない、このジレンマこそ、今の業界、特に不況下の中小零細事業者の抱える深刻な問題なのです。
愛車と愛社
ではどうするかというと、人件費以外の経費を削減するということになるのですが、これが限界になると、キングタクシーやツジムラタクシーのように倒産してしまう。車両の更新をしない、というだけではなく、配車システムや決済システムの更新をしないで旧態依然での運行は、今度は客離れになる、そういった悪循環に陥る/陥った、ので倒産が続いているのです。
それにタクシーは装備に経費がかかりすぎる、ということもあります。昔のようにメーターと無線機、電話で受注という簡単なシステムだと良かったのですが。タクシー業界は運賃の改定をする方向に進んでいくでしょう。そうなると、また客離れが起きることにもなります。
最低賃金引上げが悪いことではなく、良いことだけになるように、なにをしなければならないか、というと、ドライバー個々の生産性に対する意識、要するに「稼ぐ」ということに対する意識の高揚だと思っているのと、それに対する経営者の「賃金」に対する誠実さ、なんてことなのかもと考えています。
最低賃金3%上げ、全国平均930円 28円増を審議会決定: 日本経済新聞
タクシーもいませんが、お客様もいない豊橋駅タクシープール