ダイナミックプライシングの問題点
前回に続き、ダイナミックプライシング(応需変動運賃)について、その問題点を考えます。
例えば、電気料金。夏や冬の高需要時に料金を上げて節電を強制的に行うことが正しいのだろうか。そしてそれは公共の福祉に利することなのだろうか。料金で需給調整を行うことは正しいのだろうか。
タクシーの応需変動制運賃について、賛否両論、いや現場では反対の声が多い。そのことについて、さらに、すこしささやいてみたい(つぶやくではなくて)。
乗務員の賃金も変動する
タクシー運転手の賃金が歩合給である。そのため、そもそも応需によって賃金が変動している。この長いコロナ禍では100万円以上の年収減の運転手も多いはず。(毎日が変動賃金…)
問題は、運賃というよりも、歩合給という業界がしがみついている賃金制度、そのシステムにある。長時間労働の原因にもなっている。変動制運賃よりも、この変動制賃金の改革をまずもってやってほしい。
つまり、運賃の変動は賃金の変動なのだ。ダイナミックプライシングの問題点は、運転手の賃金もダイナミックになることだ。その理由で、運転手の反対が予想される。固定給であったら問題ないはずなのだ。
利用者の混乱
「前もって分かっていれば(安心して乗車できる)」という意見も多い。要するに「時価」に対する不安感。
法外な運賃を吹っ掛けられるということはなくて、事前確定運賃の係数に応需係数を乗ずるような方法になるんではないのだろうか。
乗車、降車場所が前もって分かっている配車に対して、事前に運賃を提示する。その運賃で運行するので、逆に値段を気にせず安心して乗車できる。事前確定運賃を基本に多少の上下をする。そうすると、それほど混乱はしないと考えるし、事前確定運賃も過去の時間帯の実績値をもとにした応需変動制ではないのか?
公共交通の放棄
閑散時の運賃が安くなる、のならば利用しやすくなるのではないのだろうか。運賃の上限を最小に、下限を多めに設定すると、例えば通常1000円のところを上限1100円、下限800円、なんてものにすると、公共性を放棄するということもなく、利用者有利になるのではないのだろうか。
上記の歩合給と公共交通の相性の悪さのほうが問題で、UDタクシーの乗車拒否問題、短距離の乗車拒否問題、長時間労働、それにともなう事故や病気の問題、乗務員への不当な手数料、最低賃金や残業代未払問題などなど、歩合給とその賃金の複雑さのほうが、公共交通従事者を「放棄」してしまう原因になっている、そう思うのだが……。
また、同じ交通従事者でも、賃金の地域間格差がこれほどまでにある職種はないのではないのか?
応需連動型事前確定運賃…
(反対する)多くの人たちが想像しているのは、乗車して支払いまで運賃が分からない、そんな鮨屋の時価のようなイメージを持っているのだろうけれど、これまで書いてきたように、事前確定運賃、その拡大版で、閑散時に値引き設定することで需要喚起する仕組み、応需連動型事前確定運賃、そう考えたほうが良いのではないだろうか。
そもそもタクシーは、運転手の地理知識や道路状況、天候によって変化する変動運賃で、そのことが使いにくい理由だったりもする。運賃に関するトラブルが多いのも、その不安感や不信感からなのだろう。事前確定運賃で解消できるはずだ。
また、乗務員側の負担軽減もある。経路と経路が決まった上で運転するのはずいぶんとストレスが少なくなるはずだ。タクシー業界に入職の不安と躊躇する理由である「地理」という問題も軽減できる。
問題の先送り
少子高齢化による利用者の減少は、タクシー業界の抱える問題のひとつだ。だとすると、潜在需要の顕在化という利用者を増やすことも課題だ。その解決方法のひとつとしてダイナミックプライシングがあるのだろう。
しかし、いろいろな施策を行っていくうえで、これまでの不具合が顕在化している。その不具合(例えば歩合給)の問題を解消しないまま強引に進めてゆく、そのことに問題がある。
この問題にからめて「白タク問題」が俎上に上がっている。タクシー事業者の倒産、廃業がある中、公共交通空白地に白タクが入る隙間ができる。利用者にとっては移動できないという権利の喪失こそ問題であって、白タクの問題は二の次なのだ。
だから、私たちは、なにがなんでも健全な経営状態を保ち、質の良いサービスと不足ない供給体制を構築し、地域の住民のみなさんに満足してもらわないと明日がない、そう思うんだが……。