郵便局で働く・タクトタイムは30日(2)

「郵便局で働きませんか?」

あの年、ボクにとっては最初の危機みたいな年をなんとか乗り切った、その翌年の2005年にボクたちは出会った。Tちゃんもその頃無職で、ボクもトヨタに来るまでは就職活動をしていて、どちらともハローワークに行くことが仕事のようになっていたんだ。

「ないよね」「ないですねえ」なんてのが、ボクたちの合言葉みたいになっていて、面接試験の結果のハガキの重さぐらいの人生の時を過していたんだ。「合格」「不合格」という文字の一字「不」だけがボクたちであって、たったその一文字だけで人格までもが否定されているような、イヤな感じを、そしてかなり心にダメージを受けてた。

「もうなんでもいいよ」ってのはボクの口癖で、Tちゃんも(彼はボクよりも若くて、その分まだ希望も持てたのだろうけれど)「なにかしないといけませんよね」ってな感じで、ふたりとも疲れていたと思う。


春が来ると、郵便配達の人は少し楽になるかもしれないですね。それが春が来るってことの意味かもしれないなあ。

郵便局で働く

Tちゃんが見つけてきた「なにか」は郵便局の配達のアルバイトで、ゆうメイトなんて言われて、ちょっといいカンジに聞こえる時給750円の仕事で、1日7時間22日勤務でなんとか月に10万円になる就職だった。「昇給もあるし、なによりも“大手”ですからね」なんて、その10万円の中にも希望を見つけようとしていたし、きっと、それがTちゃんの最後のプライドだったのかもしれないと、思っている。

ボクもなんだか行き詰まっていたし、「もうどうでもいいよ」というような気持ちもあって、「消えてしまいたいなあ」なんて思ったこともあったんだけれど、とりあえず家賃の支払いなんていう現実がポツンポツンと、朝目覚めたら思い出されて、その支払いをすることがボクの全てに置き換えられてしまっているような感じの日々を、過していたんだ。

クロネコヤマトでのバイト

そしてボクは、その年の暮れから、宅配便の仕分けのアルバイトを始めたのだけれど、それはその時まで感じていた「どうでもいいよ」という気持ちとの決別というよりは、その延長線上の、どうでも良い1時間を1000円と交換するようなものだったし、ボクがそこから「何か」を得たということもなくて、労働というものの負の価値というような、例えばその金銭と時間の交換みたいな、そんなことを感じるだけだったんだ。

ボクはその後、トヨタ期間従業員として出稼ぎに行って、今でちょうど1年過ぎたのだけれど、Tちゃんは今もゆうメイトとして郵便配達のバイトをしている。Tちゃんにとっての1年は、時給にして50円、月にして7000円ほどの変化を見せたのだけれど、Tちゃんの生活ってのは、あの頃とは少しも変わらずに、7000円という豊かさは、Tちゃんにとっては、逆に、彼自身の足かせになっているような気もするし、そのためになおさら身動きできないでいるようにも思えた。

無期限の有期雇用契約

金曜日の夜、ボクたちは新年会をしたのだけれど、ハローワークを職場のようにしていたあの頃の仲間は、雇用形態は違えど就職していて、忙しい日々を送っている。それでも、忙しさとは別に、あの頃よりはもっと焦燥感があって、潜像のようなボクたちの姿を鏡に写している毎日を送っていると思っている。

Tちゃんにしても、Kさん、Nさんも同じような非正規社員として働いているのだけれど、その状態で1年近くも、そしてそれは無期限の有期雇用契約みたいなもんで、もう終わることのない奈落の底といった場所で、這い上がることをも許してくれないシステムの犠牲者みたいなもんで、人権ってことや、生存権なんてことも希薄なところで、ギリギリ生かされているんじゃないかと、ボクは思ったりしているんだ。

TPSを導入して、血眼になってコストカットをしているところがあるのだけれど、品質ってのは、どうもコストカットと比例して低下するという面もあると思うんだ。

トヨタ方式は万能なのか

郵便局を例に出すと、確かに郵便配達員の人たちは、配達時に愛想よく話しかけてくれたりするようになったんだけれど、中には届かない郵便物が増えたり、「タクトタイムは30日」なんて言われるように、民間はもうとっくに終わっていることを、未だに終わらせることが出来ないということは、ちょっとおかしいのではないのかと思っている。

がんばろう、〒。|一人群雄割拠

 

あー、うちに来たトヨタの人間、早くいなくなんねーかなー。いい加減、「車販売」と「物流」を同じ方法でやろうとする無意味さを考えてください。車は発注を受けて一定期間の後に納車されるけど、物流はすぐにやんなきゃいけないんです。考え方は間違ってはいないけど、ちょっとトヨタ方式をありえない方向で〒に押し付けすぎです。

これがもっともの意見だと思う。なんでもかんでもトヨタ方式を導入してしまうってのは、ちょっと違うように感じるし、コストカットやカイゼンが一人歩きして、人間までも機械と同じように扱われているのではないかと思っている。

それが厚労相の「産む機械、産む装置」なんて発言に繋がっているのではないのだろうか。

年収150万円

「郵便局で働きませんか」って、Tちゃんは言うのだけれど、ボクは「何もなかったら頼むよ」ってぐらいしか言えなかったし、Tちゃんにとっては、いくらバイトだといっても、仕事にプライドを持っているんだろうから、ボクが「あんなところ」なんて言うことも出来ないしね。

仕事に対するプライドや責任感ってのは、1円にもならないってことを、すでにボクたちは知ってしまっていて、そういった職業観ってのはTPSを導入したところで培われるわけでもなくて、企業やそこで働く一部の人たちの存続のために、生きるという希望さえ脅かされているように感じているんだ。

なにも再チャレンジをさせてくれとか、優遇しろとか言ってるのではなくて、Tちゃんのように年収150万円以下で働きながら、「真面目にやってたら、きっと良いことありますよ。今年は民営化の年ですしね」なんて、ボクに言わせれば「騙されてんだよ」みたいな夢を見ることだけしか、デキナイ状況にある、ってことが問題なんだと思っているんだ。

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2件のコメント

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    懐かしいエントリーにコメントを付けてくれると、あの頃を思い出して、読み返してしまいます。Tちゃんはどうしているのだろうかなあ、なんて…。正社員になれたのだろうか…。
    フリーターなんてコトバは、雇われる方が造ったものではなくて、雇うほうがいかにもそれが良いことであるかのように使ったコトバなのでしょう。
    景気は少し上向きのようなんだけれど、雇用も増えているのかなあ。ひとり転職した知人がいますけれど、良い職場だといいのだけれど。
    なのさんも、あまりいろいろなことを気にせず、ゆっくりと探すことも大切ですよ。急ぐと良いことはない、というのも事実ですし…。

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     昨日、ハロワに求人情報を貰いに行きました。相変わらずの日々で、兄に小言言われてます・・・。犯罪犯した訳でもないのに、日が暮れてから、行動してるからです。「生活サイクルを直せ!」と・・・。正論なんですけれどね・・・。正論がこたえる…。一生、日雇い労働者なのかな・・・。フリーターなんて、ちっとも気楽じゃないですよね・・・。バイト、パートなんて、変則的な時間に働くのに・・・。金曜の夜、トヨタ系の社員が、刈谷の飲食店で飲み食いしてました。20代の頃、飲食店で働いた時、トヨタ系の社員を接客した事を思い出しました。ひがみに聞こえるかもしれませんが、彼らも、ストレス一杯なんでしょうね…。お酒に酔った嬌声が、なんだか、別世界でした。。。こっちは、呑むお金もないっつーーの!!(悪態ついてみました。)            閉店のお知らせの張り紙貼ってあった、昔ながらの中華飯店を見て、こうして刻々と変わっていってしまうんだな。。。といちまつの寂しさを覚えました。年取ったんでしょうかね…。昭和の人間です。スピード社会に、気持ちがついてかない。私みたいな人間が、死を選ぶのかな・・・と。実は、在職中に社員証と印鑑が入ったポーチを落としたんですが(馬鹿です。)、警察から郵便局に連絡が入って、返しに行きました。(だから何だって話でしょうが・・・)落ちてた場所聞いたら、車でしか行かない場所で・・・。まだ、あの頃は、車に乗ってたな・・・と。ストレス解消で、暴走したし・・・辞めた後に見つかるこの皮肉です。正直言って、機械のように働いてた郵便局時代は、もういいかな・・・と。人情味もありましたけれどね・・・。気持ちの落しどころは、帰りに寄る、スターバックスだけでした。(何のために働いてたのか・・・。)
    上手くいってないのは、自分だけではないのは分かってます。当時の、やりきれなさを思い出しました。。。子供っぽいこと書きました。

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