就職(1)

スーツを買ったのだよ。
就職活動に必要なものと言えばスーツと履歴書、職務経歴書、それに志望動機とか嘘っぱちな笑顔とか。
スーツは持っていたのだよ。
この何年かで身体がひと回り小さくなってしまっていて、なんとも間抜けな脱け殻のようなオレとか。
父親の形見のコートがあって、それは父親のお気に入りのコートで、冬の写真には必ずそのコートで写っていた。
近くの洋服屋で仕立てたもので、父の身体の大きさそのもの、それは脱け殻というよりは、父そのもの、のように存在している。
そのコートは、何年か前にはボクのために仕立てたのかと思うぐらいにジャストフィットだった。それはボクと父の大きさが同じだということだったし、父の遺伝子でボクが作られているということだし、そのコートでさえ、なにか父の皮膚の一部で裁縫されたものではないかと、ボクはかなり思っていた。
ボクがそのコートを形見分けしてもらった理由も、サイズが合うのがボクしかいなかったということだけだった。母はコートを着たボクに、きっと、父を見ていたのだろうと思う。
今、身体がひと回り小さくなってしまっては、そのコートはひと回り大きくなってしまっていて、ボクはすこし驚いている。父がそれほど大きかったということよりも、父が亡くなる前の大きさが、きっと今のボクだということ、それが容易に想起されると、このコートは、きっと、何かのを計る度量衡なのかもしれないと…。
ジャスコで買ったのだよ。
AとかYとかBとかで規格された脱け殻がそこに並んでいた。
あるいは10000円とか19800円とか29800円という価格で区別された脱け殻がそこに並んでいた。
ボクは、例えば生活の柄を考えて、あるいは、ボクの柄を考えて、そして色とか柄を考えて、その中のひとつを選択したのだよ。
10000円のスーツを買ったのだよ。
その10000円にラッピングされるボクは、と言えば、あの頃よりはかなりシャープになった肉体と割れた腹筋が、例えば動物としての価値を高めているし、そしてボクには10000円では買えないような秘密の話を持っているのだけれど、ボクがその面接現場に行って、江頭2:50のように裸になって踊ることは許されないだろうし、面接官のひとりをつかまえて「かなり面白い話ですぜ旦那」なんて、どっぷりと2時間ほどその秘密話を聞かせる機会も与えられないのだから、やっぱり10000円の値札を付けられてしまったようなものかもしれないと、思ったりする。
いや、本当は違うのだよ。
面接官なんてのは見ただけで「デキル」と、まるで武道家のようなものだろうから、その人がどれだけ殺気とか、その逆の暢気とか、を漂わせているかによって価値を判断されるものなのだろう。
あるいは、路上の占い師のように、何か凡人には見えないものが見えて、その人の生年月日や出生地などを元に将来までをも決定してしまうようなことがデキルのだろう。
もっと言えば、「なんとなく」とかいう神がかりだったり…。
ボクは、きっと、この先もさらに縮んでゆき、その度に大きくなった服を脱け殻のように脱ぎ捨ててゆくのだろうと思っている。そしてもうYとかAとかの規格では縛られないくらいの肉体になったときに、きっと、何かが始まるのだろうと思っている。

北から南からいろんな人が
毎日家をはなれ夜汽車にゆられ
はるばると東京までくるという
田んぼからはい出 飯場を流れ
豊作を夢みて来たがドッコイ!
そうは問屋がおろさない
お役人が立ちふさがって言うことにゃ
わかってるだろが来年は勝負なんだよ…!?
銭がなけりゃ君!銭がなけりゃ
帰った方が身の為さ アンタの故郷へ
高田渡「銭がなけりゃ」

6件のコメント

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    ぐるりんさん、こんにちは。
    う~ん、やる気かあ。
    満々とはいかないかなあ。
    ま、んでも、スーツ着てない人もいたりして、ジャケットだけで来ればよかったかなあ、ってのがその面接の印象でした。
    ま、その報告は後々するとして、おっしゃる通りで、3万円出せば、も少し身体の線にあったスーツがあって、そのほうが良かったかなって思ってけれど…。
    少しだけやる気を出す。

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    買うの遅いよ。やる気あんのか。
    1万円のスーツじゃなくて、エフワンあたりで作った2、3万位のスーツにしなさい。

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    >北斗星さんへ
    そろそろですね。
    20キロですかあ。でも貫禄が出てきた、ってことなのかもしれないですね。小さくなるってのは、病気なのかなあ、なんてマジで考えたりしています。
    美味しいものってのは、カロリーと塩分が高いものが多い、ような?
    ボクは、ま、かなりカロリーを控えているのですけれど。たんぱく質不足にならないようにはしています。
    先週の受け入れは30人台だったとかで、やっぱり減少傾向にあるのかなあ。シニア比率も高くなっているのだろうし、スパイラル比率も…。ちょうど良い時期に満了になるってことなのかもしれませんね。
    >combiさんへ
    10代の服が合うのなら、それはすごいことですよ。ま、ボクもですけれど…。ただ、お腹のぜい肉がねえ、落ちない。背中のほうのが…。腹筋だけではどうも…。
    なるほど、そういうことが言えますね。
    品質が均一化したというよりも、日本のそれが落ちたと考えるのが妥当なのでしょうね。
    ま、狂牛病のこともあって、レベルがあの程度の国ですから…。いろんな部位、じゃなくて、部品が混入していても、ビックリはしませんけれど。
    中国産は、ま、そうですよね。今のところ怖くて…。いくらこの国でエコ替えなんてことをしても、地球単位で考えると…。グローバル化ってのは、そこまで考えないといけないことなのでしょうが、なにか、どこかピンボケしている企業だと思っています。
    >稀さんへ
    お腹の肉は落ちないですね。前は落ちても、横や背中は落ちない。どうやったら落ちるんだろうか、と考えています。
    運動(含セックス)食事、ってことなのかも?
    バランスかあ、ま、年齢とともに、アンバランスになってくるから、太るってことなのかもしれませんね。
    食欲だけが旺盛になるってのが、なんともねえ。

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    一回り小さくなりたいな・・。
    今日もお腹の肉をつまんで・・。
    ため息・・・・・・・・・・・・・。
    パンパンだ・・。
    運動・食事・あと・・SEX.
    バランスいいのがやせるコツ。
    と思っています。

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    年を取ってから筋肉質になるというのは、羨ましい限りです。
    私は、10代後半の頃に使っていた服で程度の良いものはとりあえず着ることはできますが、余裕はなくなってきてます・・・
    さて、北米産のアメ車を輸出するというのは、円高回避の苦肉の策でしょうが、国内の品質が北米並に落ちたということでしょうな。
    そりゃぁ、日本国内でこれだけ下請けをシメて納入価格を下げさせたら、中にはギリギリのスペックのものも混じるでしょうからね。
    また、北米産のトヨタ車には、メキシコ製のパーツが多く使われているので、先進国では既に廃止した鉛(全廃というわけではない)の混じったパーツも使っているでしょうし、パーツまで含めた完成車までの工程の多くに文盲がいます。
    そんなアメ車を輸出するトヨタは、大変な勇気がありますね。
    支那でのカローラは、しょせん支那車で、公害物質使いまくりの材料でしょうし、間違っても中共外には出せないでしょうから、安く作るためには公害もいとわないトヨタの面目躍如といったところでしょうか。
    わざわざ、日本で低公害材料を使って作った車を、未規制の国に出すことはないということで、それらの材料で作った車は、欧米の規制地域へ出して、大儲け、ということですな。

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    自分は、若かりし頃にくらべたら20㎏近く増量し、見事なラーメンメタボリック体型ですねぇ…。
    前回来た時は、内臓が治ったばかりのうえ、寝不足もあって少しやせましたが、今回は仕事も力仕事ではないし、ドヤジに悩まされて寝れないぶん、食べまくってますから、ヘタすると太ったかも…。
    もう工場の中は暑いです。ただ、残業は0.5になりましたね。2製など毎日定時だし…。7月以降の1製も減産の方向で、他の方が書いてるように、期間従業員の延長却下や保留が続出してます。

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